随所に安倍氏の遺産
石破茂首相とトランプ米大統領による初の日米首脳会談はつつがなく終わった。各紙9日付を見ると、産経は1面トップに「円満会談 安倍氏が礎」を据え、「トランプ氏『シンゾーは友人』」との見出しも掲げた。読売は「安倍元首相の『遺産』随所に トランプ氏 再三言及」(国際面)と紹介し、政府内には「安倍氏の『遺産』が会談を成功に導いた」(高官)との見方も出ているとしている。
その「遺産」つぶしに明け暮れてきた朝日もさすがに黙殺できず、「(トランプ氏は)この日、何度も名前を口にした安倍晋三元首相と協議を重ねたとし、『私の1期目のおかげだ』と語った」と記し、安倍元首相の通訳だった外交官、高尾直氏を今回の通訳に起用するなど「政府の総力戦の結果だ」(政府関係者)と首脳会談を評している(2面「時時刻刻」)。社説では「安全保障や経済での協力強化で合意するなど、まずまずの滑り出しとなった」とも書いた。
それにしても朝日はどの口でこう言っているのか、いささか呆(あき)れた。「1期目のおかげ」の最大の成果は何といっても集団的自衛権の一部行使を認めた平和安全法制だろう。これによって日米の協力強化の端緒を開いた。それを真っ向から否定し、ぶっつぶそうとしたのが朝日ではなかったのか。2015年7月に同法案が衆院特別委で採択されると、朝日は「戦後の歩み覆す暴挙」(同16日付社説)とまで言ってのけた。
二枚舌で仲違い狙う
その「暴挙」がいつの間にか、「日本にとってアジア太平洋地域への米国の関与を確かにすることは重要だ」(社説)とすり替えられている。恐るべき二枚舌と言うほかない。二枚舌とは、相反することを人に語り、仲違(なかたが)いさせる仏教語「両舌(りょうぜつ)」に由来するそうだが、どうやら朝日は日米の仲違いを密(ひそ)かに狙っているようだ。
社説は「日本外交の自律性を高め、各国と連携して新たな国際秩序を探る多角的な取り組みを強めねばならない」とし、「日本が主体的に中国との直接対話や信頼醸成に努める必要がある。石破政権になり、外相や与党幹事長らの訪中が続く。この流れを大事にしたい」と、媚中(びちゅう)(中国にこびる)を勧めている。
朝日の本音は1面コラム天声人語に露見していた。今回の日米首脳会談を「下請け会社の社長が、取引先を訪れた。変わり者の新任社長に挨拶(あいさつ)する。生殺与奪の権を握られた立場だ。お世辞の一つも言い、丁重にお願いする」と石破首相を揶揄(やゆ)している。媚中はよし、媚米(びべい)はダメというわけか。
共産系政党もこれとそっくりのことを言っている。「トランプ氏の顔色うかがう異常さ際立つ」(山添拓共産党政策委員長=NHK「日曜討論」)、「米国の家来としてお土産を持って行っただけ」(福島瑞穂社民党党首=産経ネット、いずれも9日)。なるほど朝日と親和性があるわけだ。
毎日は安倍元首相の「遺産」には、わずかに触れるだけで、矛先をもっぱらトランプ大統領に向ける。1面肩の「リスク管理の始まり」と題する田中成之政治部長の論評は、トランプ氏を「リスク」(危険)扱いした。その中で「(米国内で)対立派を標的とする逆流を巻き起こし、毛沢東が発動した文化大革命を思い起こさせる」と記している。
米国民は保守化選択
あきれた認識である。米国の過激リベラル勢力は南北戦争の南側英雄リー将軍の銅像を撤去させ、「建国の父祖」をも葬り去ろうと、それこそ文革の米国版を地で行っていた。過激なジェンダーフリー、LGBT運動もそうで、彼らは毎日の「お仲間」かもしれないが、普通の米国民はそれを正そうとトランプ圧勝をもたらしたのではなかったのか。
天声人語は「戦後80年のいま、米国はかつてなく、危うい方向に進もうとしている」と言い、毎日は米大統領を危険視する。これには習近平中国主席もプーチン露大統領もご満悦だろう。こんな新聞こそ日本のリスクである。
(増 記代司)