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コメ高騰長期化に「備蓄米の放出」を評価し米価の安定求めた日経

論評は日経1紙のみ

「長引く米価の高騰を考えれば当然の判断だろう」――。日経4日付社説の冒頭の一文である。

同社説は農林水産省が、これまで凶作で生産量が落ち込んだ場合などに限定していた政府備蓄米の活用を、将来買い戻すことを条件に業者への売り渡しを可能にしたことを受けてのもの。昨年夏の「令和の米騒動」以降、業者間の調達競争を背景にコメの価格高騰が続いているのを受け、備蓄米活用のルールを転換して流通の課題解消にも対応できるようにしたわけである。

国民の主食の問題であり、最近では物価高の象徴のような存在になっているコメ高騰だけに、もっと社説で取り上げてもいいと思うのだが、5日までに日経の1紙だけで、何とも寂しい限りである。

今回、この問題を取り上げたのは、コメ高騰長期化という問題もさることながら、価格形成に政府の介入を基本的に良しとしない日経が、冒頭のように、「当然の判断」と強調したからである。

それだけでなく、「農水省が当初、備蓄米の放出を否定していたことが米価の上昇を招いた面もある」と記し、もっと早く決断すべきだったと受け取れる一文も載せている。

その一文に続いて、「家計への影響が深刻になったため、放出を視野に入れることにした」と記していることからすれば、「家計への影響が深刻」という意識を同紙は農水省より強く持っていた、とも受け取れる。

収穫増でも集荷減少

それなら、コメと同様に家計へ大きな打撃になっている電気・ガス代やガソリン代への政府補助はどうなのか。

例えば、昨年4月5日付社説では、ガソリン補助金について、「市場をゆがめる政府の介入をいつまで続けるつもりか」と批判。また、同年11月22日社説では、電気・ガス代やガソリン代の補助を含む物価高対策について、「市場の価格形成をゆがめ、脱炭素にも逆行する政策をだらだらと続けるのには賛成できない」とする。家計への深刻さという点では、そう変わらないと思うのだが……。

話が少しそれてしまった。コメの話に戻す。

同紙は、「今回の騒動で、農水省が民間の在庫量を把握できていない実態も明らかになった」と記す。

理由は、調査対象がJA(農業協同組合)や大手の卸会社などで、規模の小さい流通業者は含まれていないためだ。「需給の逼迫によってコメの買い付け競争が激しくなったことで在庫が分散し、調査の精度が落ちている」のだ。

24年産米の収穫量は679・2万㌧と23年産米より18・2万㌧多いにもかかわらず、集荷量(24年12月末時点)は215・7万㌧と前年より20・6万㌧も少ないという状況で、業者間の調達競争がいかに激しいかがうかがえる。

コメがどのくらい余っているかを正しく認識するのが備蓄の放出を判断する前提となる。同紙は「先行きに不安を感じた消費者が買いだめするような事態を避けるためにも、正確な情報の把握と発信に向けた体制づくりを急ぐべきだ」と強調するが、同感である。

高値背景に需給逼迫

高値が続く背景には需給逼迫があり、基本的には稲作の後継者不足や作付面積の減少傾向など供給力の不足がある。

同紙は「稲作の担い手を確保し、主食の生産インフラである水田を守るのは農政の責務だ」と強調、「農水省は一連の混乱を教訓として、食料供給への不安を払拭してほしい」としたが、天候不順などに左右されない「供給力の強化」を求めるべきだろう。

カロリーベースで38%、生産額ベースでも61%と主要先進国でも極めて低い食料自給率(23年度)は食糧安全保障上でも問題であり、その改善は不可欠である。今回のコメ高騰を奇貨として供給力の強化への転換も図る。それで需要量を十分に上回るようなら、輸出に振り向けることで、政府が目標にしている農産物輸出の増加にも寄与できる。

(床井明男)

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