可能性低い停戦維持
トランプ米大統領の返り咲きで、パレスチナ和平に期待が懸かっている。
パレスチナ自治区ガザでは、一昨年10月のイスラム組織ハマスのイスラエル急襲後、イスラエルによるハマス掃討作戦が展開されている。パレスチナ側の死者は4万7000人を超え、国際社会からはイスラエル、それを支援する米国への批判が強まり、停戦へ圧力がかかる。
英誌タイムは2日、論考「トランプ氏はどうすれば中東のピースメーカーになれるか」で、トランプ氏にイスラエル支援を継続しないよう呼び掛けた。
現在イスラエルとハマスは42日間の停戦中だ。タイムは、「ネタニヤフ首相が米国の支援で戦争を再開できると考えているのであれば、停戦が維持される可能性は低い」と指摘、「トランプ大統領は、戦争の恒久的な終結に全力を挙げ、停戦が決裂して戦争が再開された場合、米国は関与しないとイスラエルのネタニヤフ首相に明確に伝えるべきだ」と強調する。
その理由としてタイムは、戦闘を継続しても「ハマスの破壊と人質の全員解放を達成できるという確証がほとんどない」ことを挙げる。
確かにこのところ、ハマスの復活を伝える報道が散見される。ハマスの大隊のほとんどが壊滅状態にあるとされていたものの、戦闘員の補充が進み、ガザ地区内でのハマス支配が揺らぐことはないとの見方が強まっている。おまけに人質の完全解放のめどはいまだ立たない。
難しい「ハマス壊滅」
イスラエルの保守系紙エルサレム・ポスト紙は、「イスラム聖戦とハマス合わせて2万人以上の戦闘員が戻ってきた」と報じている。ブリンケン前国務長官も最近、ハマスが1年3カ月の紛争で失ったのとほぼ同数の戦闘員をリクルートしたと述べている。
これには、北のレバノンのイラン系イスラム教シーア派組織ヒズボラとの戦闘に兵力を振り向けたため、ガザ地区が手薄になったことが挙げられるものの、当初ネタニヤフ首相が目指した「ハマス壊滅」がいかに難しいかを物語っている。
放置すれば、ハマスのガザ支配は続き、いずれイスラエルへの攻撃も再開されるはずだ。
停戦は、大統領就任前のトランプ氏の影響力があったとされている。タイムは「ネタニヤフ首相に対して、この戦争に対する米国の支援はもう終わりだと明確に示すべきだ」というが、ハマス復権の可能性などには触れず、和平への具体策も示されていない。
米国がイスラエル支援をやめれば、イスラエルが攻撃を継続することは困難になり、「平和」は訪れるかもしれない。だが、それが一時的なものにすぎないことは、これまでのイスラエルとハマスの衝突を見れば明らかだ。
また、トランプ氏のこれまでのイスラエル・パレスチナへの対応を見れば、イスラエル支援停止があり得ないことは明らかだ。
拒否された移住提案
トランプ氏は1期目で、パレスチナ難民を支援してきた国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への支援を停止した。また、提示された和平案も明らかにイスラエル寄りだった。
さらにトランプ氏は2期目就任後、ガザ地区のパレスチナ人のヨルダン、エジプトへの移住を提案した。230万人のガザ住民のうち、150万人ほどを想定しているとされるが、中東の衛星テレビ局アルジャジーラは、「民族浄化」と非難、英紙ガーディアンも、「危険で、違法で、成功しない」とした上で、両国がこの提案を拒否したと伝えている。
移住案は、1967年のガザ・ヨルダン川西岸占領後、イスラエルの右派勢力が求めてきたもので、ネタニヤフ氏も同様の考えを持っているとみられる。
こじれにこじれた関係を一気に改善する方法は容易には見つからないだろうが、当面はイスラエル優勢が続く様相だ。(本田隆文)