歯切れが悪い会社側

前代未聞の記者会見だった。タレントの中居正広氏の女性との性トラブルに端を発したフジテレビのやり直し会見。10時間半近くに及ぶエンドレス会見になった要因の一つに、質問に答える会社幹部の歯切れの悪さ、反論力の弱さがあった。
だが、時間の長さ以上に「ジャーナリスト」を名乗りながら、傍若無人に振る舞う人物が多数参加したという意味でも前代未聞だった。フジテレビの落ち度については、どのメディアも取り上げているので、この欄では一部記者のレベルの低さを取り上げる。
教授をつるし上げた、かつての学生運動を知る筆者は、会社幹部を糾弾する一部記者たちの姿を左翼学生の姿と重ね合わせてしまった。それはともかく、X(旧ツイッター)では「フジかわいそう」がトレンド入りしている。
記者会見にはユーチューバー含め400人超が参加した。27日午後4時に始まった会見は、フジテレビが最後まで中継したが、筆者は日付が変わったころに見るのを止(や)めた。「フリー」を名乗る記者が同じ質問を繰り返す上、自己の見解を長々と述べ、挙げ句の果てに怒号が飛び交う事態に呆(あき)れたからだ。
ルール無視する記者
繰り返された質問は幾つかあった。その一つは、トラブルに対する幹部社員Aの関与。港浩一社長は、通信履歴などを調査した結果、トラブルの契機となった食事会に関与していないことが分かったと明言した。だが、ある質問者は通信履歴は削除できる、それでなぜ関与していないと言えるのか、と食い下がった。
怒号が飛び交い、騒然としたのは、性トラブルの核心と言える当事者の意思についての問答の時だった。会社側はプライバシーを理由に答えられないとした。当人たちが明らかにしていないのだから、第三者が公の場で触れられないとすることに妥当性がある。
だが、質問者は「それを知りたくて来た。それを答えないなら、記者会見の意味はない」むね主張、司会者の交代を要求しマイクを握り続けた。指名されていない人間が会場の方々で感情むき出しの発言を行い、収拾がつかなくなる。自分の正義感に酔って大学を占拠するという暴挙を行った、かつての左翼学生と同じではないか。
記者会見参加者のレベルがここまで低いなら、フルオープンの会見はやらない方がいいとさえ思えたが、そこに会場の怒号を静める若い記者が現れた。
「同意か不同意かに関しては女性側の二次加害になってしまう可能性がある。放送されているのだから、二次加害に配慮して取材も会見もすることが重要」と発言した。拍手が沸き起こった。ルール無視の年配者と比べれば、若手の方がよほど常識をわきまえている、とほっとした。
女性を守らなかったとフジテレビを糾弾していた記者たちが、女性に対する二次加害につながる発言を行っていると批判されたも同然の展開に、SNSでは記者に「大ブーメラン」が飛んできたと喝采する書き込みが溢(あふ)れた。Xでは10時間を超えた会見に「もうこれ拷問やん。途中からかわいそうに思えてきた。お疲れ様でした」と、登壇した会社幹部たちに同情する「ポスト」にアクセスが殺到、「フジテレビかわいそう」がトレンド入りした。
文春が仲介者を訂正
そして記者会見後、ブーメランは中居氏の性トラブルが表面化するきっかけの一つになった「週刊文春」に向かっている。同誌は当初、幹部A氏が中居氏と女性の会食に関わったと報じたが、その記事に誤りがあり誘ったのは中居氏だった、と記者会見の直前、電子版で訂正した。
これで、新たな材料が出てこない限り、この点を長時間追及した記者たちは根拠を失うことになった。事実の確認でも、ジャーナリストとしてのレベルの低さがあらわになったのだ。Xでは今、文春の説明責任を問い、発行元の文藝春秋にフルオープンの記者会見を開くべきだとする声で溢れている。同社は傍若無人の人物たちが集まることに恐れをなし、どうやり過ごすかを考えていることだろう。
(森田清策)