施政方針楽しい日本
トランプ氏が米国第47代大統領に就任した。さて、日本はどうする。新聞は先週、開幕した通常国会で「熟議」の文字を躍らせたが、何を熟議するのか中身がさっぱりない。これでは激動する国際情勢の中で日本は生き残れるのか、はなはだ怪しい。
とりわけ石破茂首相である。施政方針演説で「楽しい日本」を標榜(ひょうぼう)した。これには思わず「たのしい幼稚園」が脳裏に浮かんだ。講談社が発刊する幼児向け月刊誌のことだ。余談ながらネットを見ると、3月号付録は「キミとアイドルプリキュア♪キラキラ♥
巷間(こうかん)でこんな声を聞く。「ガソリン代が1㍑190円台にもなって何が楽しい」(50代男性)「世界で戦争が続いているのに楽しい日本というのは、日本人は自分さえよければいいのかと誤解されます」(70代女性)「北朝鮮の拉致被害者を奪還せずに楽しい日本とは首相のいう言葉ではありません」(40代女性)
石破氏に欠ける俯瞰
いやはや総スカンを食らっていた。果たして世界の人々は「楽しい日本」をどう受け止めたのだろうか。石破首相には「世界の中の日本」といった地球を俯瞰(ふかん)する視点が欠けている。だから、お花畑の住人になれるのだろう。
さて、新聞である。朝日21日付社説「トランプ政権と国際社会 米依存から脱する新秩序を」も似たり寄ったりの能天気ぶりだった。現実的なことは言うには言う。例えば、こうだ。「今年の最大のリスクは『国家間の武力紛争』――幅広い識者らでつくる世界経済フォーラムの報告書は、そう指摘する。『国際協調が広範に崩壊しつつある』との悲観が広がっているのが、戦後80年を迎えた世界の現在地だ」
ならば、どうする。朝日は「緊密な対米同盟が今後も日本の外交資産であり続けるとしても、米国だけに頼らぬ安全保障と自由貿易体制を促進する自律外交の領域を広げねばならない」と言う。ほう、米国だけに頼らぬ安全保障とは――。が、具体論は一切語らない。
本気でそう言うなら、本紙20日付社説が指摘するように「日本の自主防衛整える機会に」とするのが筋ではないか。ところが、肝心の武力にどう向き合うのか、防衛の視点をすっぽり端折っているのである。とんまな朝日? いや、これは意図的な隠蔽(いんぺい)と見るべきだろう。
その防衛費について東京24日付社説がまるで朝日の本音を代弁するかのように論じている。題して「膨張続く防衛費 規模ありき、国会で正せ」。防衛費増に難癖を付けているのだ。本文では「外国の領域を攻撃する敵基地攻撃能力の整備は憲法9条に基づく専守防衛を形骸化させかねない。計画が妥当か、国会での審議を徹底することが欠かせない」と、“古典的”な憲法論を持ち出し、敵基地攻撃能力(反撃能力)の整備を批判する。ネット版にはご丁寧にも防衛費推移の棒グラフを載せ「膨張」と強調していた。
だが、驚いたことに「防衛費膨張」の背景にある日本を取り巻く軍事情勢ついて一言もないのだ。ウクライナを侵略し破壊を続けるロシアのロの字も、驚異の軍拡を続け台湾を武力併合すると豪語する中国のチの字も、核軍拡・ウクライナ派兵の北朝鮮のキの字もないのである。
防衛費増は当然の理
そもそも「彼我の能力差を縮減することによって防衛は達成される」(自衛隊ホームページ)。日本を取り巻く軍事環境の変化(大増強)に合わせて防衛費が増加するのは当然の理ではないのか。防衛費増のグラフを載せるなら、それに合わせて周辺諸国の軍拡の図も載せるのが筋だ。
それを省いて日本批判とは――。東京は一体、どこの国の新聞なのか。こっちのお花畑にはトリカブトばりの猛毒の花が盛られているとでも言うべきか。(増 記代司)