トップオピニオンメディアウォッチ極右政党支持発言を契機に「イーロン・マスク論」がにぎわう独メディア

極右政党支持発言を契機に「イーロン・マスク論」がにぎわう独メディア

イーロンマスク氏(UPI)
イーロンマスク氏(UPI)

Xで独大統領に罵声

ドナルド・トランプ氏の米大統領就任を控え、ドイツのメディアは政治、経済への影響についてさまざまな特集を組んできたが、メディアの関心はここにきてトランプ氏ではなく、同氏の最側近の米実業家イーロン・マスク氏に注がれ出した。その切っ掛けはマスク氏自身のX上でのドイツ政治家への批判、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)支持発言だ。

マスク氏はX上でシュタインマイヤー大統領を「反民主的な独裁者」と批判し、「恥を知れ」と罵声を浴びせた。マスク氏はその前にショルツ首相を「ばか者」呼ばわりしたばかりだ。マスク氏がショルツ首相をばか呼ばわりした時、多くのドイツ国民は冷静な受け取り方をしてきたが、大統領を「反民主的独裁者」と言われれば、不快を飛び越して怒り出している。

それだけではない。マスク氏がドイツ日刊紙「ウェルト」日曜版にAfDの支持を呼び掛ける寄稿を掲載したことが伝わると、選挙戦が始まっているドイツでは批判や反発の声が飛び出した。野党第1党「キリスト教民主同盟」(CDU)のメルツ党首はマスク氏のAfD支持を「出しゃばりで、傲慢(ごうまん)だ」と一蹴し、「マスク氏は何かを見落としている。AfDはテスラのドイツ工場建設に最も激しく反対していたのだ」と指摘。

また、ハベック独経済相(副首相兼任)は独週刊誌シュピーゲル(1月4日号)のインタビューで、その中で「ミスター・マスク、われわれの民主主義に手を出すな」とアピールしている、といった具合いだ。

マスク氏のウェルト日曜版への寄稿掲載はメディア界にも波紋を投じた。ウェルト日曜版の次期編集長ヤン・フィリップ・ブルガード氏はマスク氏の主張に反論し、「AfDの欧州連合(EU)懐疑論が輸出国であるドイツにとって大惨事になる。ロシアや中国への迎合、アメリカやEUへの反対というAfDの立場は、ドイツの最後の希望ではなく、価値観と経済に対する脅威である」と述べている。

“男の友情”いつまで

なお、ドイツ民間放送ニュース専門局ntvの著名なコラムニスト、ヴォルフラム・ヴァイマー記者はトランプ氏とマスク氏の男の友情(ブロマンス)がいつまで続くかをテーマに、両者の関係が決裂する四つの理由を挙げて論じている

ヴァイマー記者は最初の理由として、両者のエゴと性格的衝突を挙げている。両者は極端なアルファ型の性格を持つため、そのうち互いの虚栄心、利己主義、使命感が衝突するというのだ。マスク氏もトランプ氏もナルシシストであり、長期間にわたり対等なパートナーシップを築くことは困難だ。二つ目はトランプ氏の同盟者への厳しい対応だ、トランプ氏は最も親しい同盟者でさえも、自分に逆らったり、退屈になったり、スケープゴートとして必要になったりすれば容赦なく切り捨ててきた。

三つ目は共和党内での対立だ。マスク氏は共和党のプロの政治家たちを敵に回している。彼らは選挙で選ばれたわけでもないマスク氏が官僚主義の改革を仕切ることに苛(いら)立ちを感じている。四つ目は対中政策での対立だ。トランプ氏は中国をアメリカの主敵と見なしているが、マスク氏は中国で大量の電気自動車を販売しており、貿易戦争や対立を望んでいない。

バノン氏との比較も

最後に、ケルン大学政治学教授トーマス・イェーガー氏は「トランプ氏とマスク氏の関係が決裂する可能性がある」と指摘する一方、「テクノロジー界の億万長者にはスティーブン・バノン氏よりもチャンスはある」と説明している。第1次政権で最初の7カ月間、ホワイトハウスの首席戦略官を務めたバノン氏は当時、トランプ氏を支える黒幕と受け取られていたが、最終的には意見の相違からホワイトハウスから出て行った。ドイツのメディアはマスク氏がバノン氏と同じ運命になるのではないか、とみている。

(小川 敏)

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