トップオピニオンメディアウォッチ朝日の「揺らぐ国際規範」を憂うは、露中の拒否権を無視した絵空事

朝日の「揺らぐ国際規範」を憂うは、露中の拒否権を無視した絵空事

ウクライナのゼレンスキー大統領は、パリでトランプ次期米大統領と会談した=フランス・パリ、2024年12月7日(ウクライナ大統領報道局/UPI)
ウクライナのゼレンスキー大統領は、パリでトランプ次期米大統領と会談した=フランス・パリ、2024年12月7日(ウクライナ大統領報道局/UPI)

ウクライナ地雷非難

庭に植えた草花の中に成長がストップしたまま、花も咲かせず実も付けずといったものがある。枯れはしないのだが、少々の水と太陽を浴び、ただ生命を維持しているだけだ。朝日新聞を見て、この成長エネルギーを喪失した草花を思い起こした。

3日付の社説「揺らぐ国際規範 人道理念 守る決意と実践を」で、米国政府がウクライナに地雷を供与すると表明したことを遺憾とし、対人地雷禁止条約の厳格な履行と拡大を主張した。とりわけ「ウクライナは(同条約締結国だから)対人地雷の取得も使用も許されない」と厳しく言及している。

だが、ウクライナを侵略したロシア軍は、大量の地雷を埋め、ウクライナ国民1300人近くを死傷させている。ウクライナは地雷の犠牲者であり今は非常時だ。そのウクライナに「自衛のための地雷を使うな」というのは、銃器を持った泥棒に入られた家の住人に、泥棒がけがをするから銃器は使うなというのと同じことだ。

一家の主人は妻や子供を守るため、命の犠牲すらいとわず手を尽くす。一国の責任を持つ主権者であれば、あらゆる手立てを講じて、国民の命と財産を守る義務がある。その侵略者からの攻撃を振り払おうという手を縛って、何の意味があるのか。

危機感持つ露の隣国

さらに同社説は「ロシアの隣国で、条約締約国のフィンランドの国防省も対人地雷の再導入を検討していると明らかにした。ラトビアでは条約からの離脱を求める署名活動が始まった」ことを嘆いた上で「国際社会が積み上げてきた人道法という“ルール”が、いともたやすく破られ、人命が理不尽に奪われていく。理念の退行という逆向きの時計の針を止める必要がある」と言うが、守るべきはロシア軍から銃を突き付けられているウクライナ国民の命であり、「今日のウクライナは明日のわが国」との危機感を持つロシアと国境を接しているフィンランドやラトビア国民の命であって、条約の文言ではない。

それを言うなら、ウクライナやラトビア、フィンランドではなくロシアに言うべき言葉だろう。「理念の退行という逆向きの時計の針を止める」というが、止めるべきは「お花畑」に生きているリアリティー欠落の「逆向きの時計」の方だ。

また、同社説は、20日に米大統領に就任するトランプ氏にも刀を向ける。

「トランプ氏は1期目に世界保健機関(WHO)からの脱退を表明し、ユネスコや温暖化対策の国際ルール『パリ協定』から離脱した。国連平和維持活動(PKO)予算や国連機関向けの拠出金の大幅削減も主張する」とした上で「国連軽視の加速が懸念される」と総括した。

だが、トランプ氏が国連に重きを置かないのは、スローガンに掲げた自国第一主義故ではない。常任理事国のロシアや中国などが国際ルールを無視して拒否権を発動し機能不全を起こしている現実があるからだ。政治家というのは“夢を語る伝道師”ではなく、結果をたたき出せるかどうかで、その価値が決まる。その意味でもトランプ氏は、リアリスト中のリアリストだ。

リアリティー観なし

成長が止まったままの草花を掘り出すと、決まって根の張りが小さい。夏のカボチャは10㍍ほどにもツルを伸ばすが、根も同様に大きく伸ばしエネルギーを補給する。高くそびえる木は、鏡写しのように地下にも根を伸ばし巨体を支える。メディアが植物にとっての根に当たる現場のリアリティーに目を背け観念的メルヘンの世界で筆を走らせれば、ただのあだ花に終わる。

第四の権力といわれるマスコミがメルヘンの世界で空回りを始めだすと、直に権威を失うことになる。権力という武者は、真理と道徳というニつの刀を差さなくてはいけない。徳があり真理に根差した権力の行使こそ、真の権威を紡ぎ出す。静かに威張っていいのは、そうした権力だ。そうでなければ、ただ自分の我を張っているだけの、“絵空事”にすぎない。

(池永達夫)

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