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対岸の火事にしてはならないルーマニア大統領選無効取り上げた産経

投票しているイメージ(Photo by Arnaud Jaegers on Unsplash)
投票しているイメージ(Photo by Arnaud Jaegers on Unsplash)

選挙は仕切り直しに

東欧ルーマニアの憲法裁判所が、先月下旬に行われた大統領選の1回目の投票結果は無効との判断を下した。その結果、8日に予定していた決選投票は中止となり、選挙は初めから仕切り直しとなる。

世論調査で支持率1%にも満たなかった親露派の無所属候補カリン・ジョルジェスク氏が1回目の投票で突然、得票率22・94%のトップに躍り出るという大化け現象が起き、得票率19・18%で2位となった中道右派のルーマニア救国同盟候補エレナ・ラスコニ党首との決選投票に臨もうとしていた矢先の憲法裁の判断だった。

憲法裁の判断材料となったのは、クラウス・ヨハニス大統領が機密解除したルーマニア当局の情報だった。その内容は、ジョルジェスク氏の選挙運動で中国系短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」が不正利用された疑いや、選挙資金の虚偽申告などだった。

北大西洋条約機構(NATO)懐疑派のジョルジェスク氏は、プーチン露大統領への称賛発言などで物議を醸していた。大統領選中の11月には、外国で2016年に作成された800件ものTikTokアカウントが同氏を支持する情報の拡散を始めたとされ、第1回投票の2週間前には約2万5000件のアカウントを利用した大規模な選挙運動を展開した。TikTokは正式な政治広告を禁止しているが、憲法裁はこれらが政治広告に該当するとしてTikTokアカウントの不正利用との判断を下したもようだ。

ロシアの介入も指摘

また、ジョルジェスク氏は選挙資金をゼロと申告していたものの、TikTokで支持の求めを拡散したインフルエンサーに計38万1000ドル(約5700万円)が支払われていたとされる。さらに選挙管理機関への8万5000件以上に及ぶサイバー攻撃が確認され、ロシアの介入も指摘された。

さっそく産経は12日付主張「ルーマニア選挙 SNS干渉への対策急げ」で、「同氏(ジョルジェスク氏)の宣伝は政治広告と表示もされず、TikTokの一般ユーザーの目に常に入るよう工作されたとみられる。投稿に関わったインフルエンサーに多額の報酬が支払われた。資金源には暗号資産が使われた疑いも浮上した。文書はロシアなどを念頭に『外国勢力の関与』を指摘した」とした上で「ロシアは欧米の選挙や国民投票に影響力を及ぼそうと干渉を続ける。(中略)SNSを通じた干渉は来年の参院選でも起きうるとみて、政府・国会は対策を急ぐべきだ」と総括した。

五大紙の中では唯一産経のみが社説を張った格好だが、その危機認識は正しい。

魔の手払う手だてを

さらに本紙も12日付社説「ルーマニア大統領選民意曲げるサイバー戦を防げ」で、「NATO加盟国の民意を分断する情報操作はサイバー戦争の一環であり、選挙運動でのネット活用が『敵対国』に悪用されることは防がなければならない」とし「民主主義国に対して選挙を国外から操作することは、安全保障に関わる主権侵害だ。国境を越えるネット時代に、公正な選挙を追求する対策が必要だ」と主張した。

なお、サイバー戦に特化した専門部隊を持つ中国やロシア、北朝鮮に囲まれた日本こそ、大統領選で異例の司法判断となった東欧ルーマニアの出来事を「対岸の火事」にしてはならない国だ。

言論の自由がなく情報を統制する専制国家は、言論の自由が保障された民主国家に対し偽情報や宣伝情報を拡散して選挙に影響を与えようとしたり世論形成に動くことで内政に干渉してくる。

こうした「魔の手」を的確に払いのける手だてを持たぬ国は、混乱の中で亡国のリスクを抱えることになりかねないのだ。

(池永達夫)

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