トップオピニオンメディアウォッチ兵庫県知事選挙後も公平性欠き斎藤氏追及に偏った「報道特集」

兵庫県知事選挙後も公平性欠き斎藤氏追及に偏った「報道特集」

街頭演説する斎藤元彦氏 (兵庫県神戸市、11月16日撮影)
街頭演説する斎藤元彦氏 (兵庫県神戸市、11月16日撮影)

知事=加害者の構図

メディアの在り方を巡り、今年最も注目を集めたのは兵庫県政騒動だった。斎藤元彦知事によるパワハラ・おねだり疑惑と、同氏不信任後に行われた知事選におけるテレビ・新聞(オールドメディア)報道と、SNSを使った情報発信との違いが浮き彫りになった。前者は、嘘(うそ)は少ないが偏向して事実を隠し、後者は、フェイクも多いが事実をさらけ出す。師走に入れば、オールドメディアか、それともSNSかと、その優越性を争うような論争は収まるかと思っていたら、またテレビが偏向報道したとして炎上している。

TBSの「報道特集」(11月30日放送)。SNSを駆使した斎藤氏の選挙戦術や、同氏によるパワハラ・おねだりを告発、その後、自殺したとみられる元県民局長に対する懲戒処分の不当性を追及したのだが、公平性を失していた感が否めなかった。

告発文書の真偽などを調査するために県議会が設置した百条委員会の委員長や、斎藤氏に対する不信任決議の賛成討論を行った県議などへの誹謗(ひぼう)中傷が今も続いているという。番組がそこに警鐘を鳴らしたのはいい。

だが、相も変わらず、斎藤氏=加害者・不正義、疑惑追及派=被害者・正義の構図から一歩も抜け出していなかった。知事選では“斎藤バッシング”を続けたオールドメディアに対する県民の反発が同氏勝利の一因になったと言われている。一方に偏る報道を改める姿勢を見せた番組もあったが、「報道特集」に限ればちっとも変わっていなかった。

公益通報と印象付け

公平性に欠くと思われた点は幾つもあった。第一は元県民局長の告発が公益通報だと印象付けるような編集になっていたことだ。元県民局長がマスコミや県議に告発文書を送ったのは3月12日。その後、4月4日に県の公益通報窓口に通報している。後者が、公益通報者保護法で保護の対象になるのは間違いないが、知事や幹部職員を中傷する文書を流したとして懲戒処分の対象になったのは前者だ。百条委員会でも今のところ、文書の真実性を裏付けるような証言は出ておらず、噂(うわさ)話をまとめたにすぎないか、捏造(ねつぞう)の疑いさえ出ている。

前者についても公益通報になるとの見解を示す専門家がいる一方で、否定する専門家もいる。しかし、番組は公益通報になるとの見解を示す学者にインタビューしただけだった。これ一つ見ても、公平な番組だとは言えない。元県民局長はなぜ最初から公益通報窓口を利用しなかったのか、と疑問を呈すべきだったが、そこはスルーした。

元県民局長は告発文書を外部に送った後、自らが使っていた公用PCが押収されてしまい、そこにあまりに不道徳なプライベート情報があったことから、それが公になることを恐れていた。SNSでは、そのプライベート情報の一部が拡散しており、勤務中に不道徳な書き込みを行う人物が公益通報する正義の人間とは思えない、それだけでも懲戒処分に値するとの声もある。

ツッコマない取材者

さらに疑問なのは百条委員会の対応だ。番組は委員長の奥谷謙一県議に取材している。奥谷氏は「文書の内容の真偽を確かめる上では、私的な情報はいらない。私的情報の中身が何であれ、その文書自体がでたらめになるわけではない」として、元県民局長のプライバシー情報に配慮することを決めたと説明する。

ここで記者なら、その情報を調査もせずに告発文書と無関係と断定することに疑問を持ち、「なぜ無関係と言えるのか」とツッコミを入れるものだが、取材した村瀬健介キャスターはうなずいて終わりだった。一方で、斎藤氏に対しては「元県民局長の人格を破壊するような情報が大っぴらに流れているのは大問題だと思う」と問う。同氏は「ネット上における誹謗中傷、人を傷つけるようなことはあってはならない」と答えたが、番組の終わりのまとめで「他人(ひと)事のような回答しかなかった」とコメントを付けた。

これに対し、X(旧ツイッター)上には「知事の人格を破壊するオールドメディア」「テレビは終わった」と辛辣(しんらつ)なコメントが並ぶ。SNS時代になって印象操作、偏向報道がかつてほど通じなくなったことをオールドメディア関係者は気付いているのだろうか。

(森田清策)

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