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逆転したメディア利用度 ネット選挙の功罪を論じた現代の緊急対談

従来の格付けに疑問

「新聞に書いてあった」「テレビで見たけど」―。人はこれで情報の正確さが担保されたように語る。その一方で「所詮(しょせん)、週刊誌が書くことだから」と、こっちは最初から信用性が劣る前提だ。果ては「ネットはゴミだから」と言って真に受けない。

だがこの“格付け”は正しいのだろうか。今やそれぞれのメディア利用度は逆転しているのが現実だ。総務省の調べではインターネットの平均利用時間が全年代でテレビ視聴時間を上回った。「情報源としての重要度」は10、50~60代ではテレビが最も利用されているが、20~40代ではインターネットだ。ただしテレビ視聴時間は70代では1日5時間なのに対して、10代は1時間も見ていないが。

そうすると、冒頭の格付けが正しいとしたら、国民は“当てにならない”情報メディアにシフトしていっていることになるが、果たしてそうか。

兵庫県知事選ではテレビ、新聞などのオールドメディアと、ネットメディアの報道姿勢や影響力の違いが際立った。もはや選挙にネットは欠かせないツールとなっている。これを受けて週刊現代(12月7・14日号)が「西田亮介(社会学者)と安野貴博(AIエンジニア)」による緊急対談「ネットと新しい民主主義」を載せた。

兵庫県知事選は「ネットの勝利」と言われるくらい、ネット情報によって形勢が変化した。これに対して新聞・テレビなどオールドメディア側は「ネットでは検証されていない情報や、一方的な情報が溢れた」と“負け惜しみ”を繰り返した。その前提には新聞、テレビは「ファクトチェックができた記事」を出しているが、ネットには「信頼できない情報がはびこっている」というネットを見下した傲慢な態度が敷かれている。

ポータルサイトなどはもともと新聞社などから記事を買って出しているのだから、ネット記事といって、それを否定するのは自分の記事を否定することと同じなのだが。

テレビは「放送法の縛りがある」ことを言い訳にしていたが、西田氏は「公職選挙法や放送法には『選挙報道はこうしなくてはいけない』なんて書いていない」と一蹴。「視聴者からのクレームなど“面倒なこと”は避けたいので各候補者の尺(放映時間)を揃えたり、抑制的な報道」に終始しているのが実態だとテレビの姿勢を批判した。

長時間の説明を支持

一方、ネットでは候補者は自身の主張を長時間述べることができる。安野氏が面白い例を挙げていた。米大統領選でトランプ氏は「ネットラジオのポッドキャストで3時間も4時間も延々としゃべり続ける」のに対して、ハリス氏は「インスタグラムでセレブリティに支持を表明してもらう」形式で、両者のスタイルに違いがあったと。

これを受けて西田氏が「日本でも国民民主党の玉木雄一郎さんなどはユーチューブの長尺動画に力を入れていて、蓮舫さんなどはインスタグラムを使うといった違いがありましたね」と紹介した。奇(く)しくも日米とも“本人による長時間の説明”の方が支持を得たことが分かる。

ネットから選挙情報を得ようとする人は、こうしてじっくりと本人の口から「一次情報」を聞くことができるわけだ。ただし、ネットといってもインスタグラムのようなスタイリッシュだが伝えられる情報が少ないものは、なかなか主張が伝わっていないという差があり興味深い。

「グレーな手法」懸念

ネットの効用ばかり挙げてきたが、もちろんそれは一面だ。安野氏は「ネット選挙がもたらすものは明るい未来ばかりではない」と釘(くぎ)を刺す。「グレーな手法」が使われ「デマを流したり、ウィキペディアを荒らしたり。みんながこういった手法を駆使し始めたら、まさにディストピアです」と懸念を示した。

これを防ぐには「リテラシー教育」が重要なのはもちろんだが、「やはりメディアがしっかりする必要がある」と西田氏は注文する。ただし「そのマスコミ自体から報道を変えていこうという気概が感じられないのが残念」と付け加えた。ネットは「ゴミ」ばかりでなく、オールドメディアを凌(しの)ぐ情報源となっていることを受け止める必要がある。

(岩崎 哲)

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