トップオピニオンメディアウォッチ信憑性に疑問の『鉄の暴風』を褒めちぎり、真実に迫ろうとしない朝日新聞

信憑性に疑問の『鉄の暴風』を褒めちぎり、真実に迫ろうとしない朝日新聞

ペンでメモを取るイメージ(Unsplash)

「真実」が新聞の価値

「事実かどうか確認できていないものもあると思う。でも、それで視聴者は喜んでくれるならいい」。兵庫県知事選挙で勝因に挙げられたSNSについてユーチューバーの一人はこう語っている(読売「SNSと選挙・上」(11月24日付)。閲覧を稼ぎ収益を上げるためには「事実」はどうでもいいと言わんばかりだ。

これに対して新聞ならこう反論するだろう、「真実こそ問題だ」と。新聞倫理綱領には「新聞は歴史の記録者であり、記者の任務は真実の追究である」(日本新聞協会)と謳っている。朝日新聞綱領にも「真実を公正敏速に報道し」とある。新聞がSNSに対して胸を張ろうというなら、それは「真実の報道」でしかないはずである。少なくともその追究を怠るようでは新聞の値打ちがない。

だが、朝日はどうだろう。信ぴょう性が疑問視される沖縄戦を巡る書籍を臆面もなく30日付夕刊の社会面トップで「沖縄戦 住民目線で読み継ぐ 初版1950年『生き地獄 生々しく伝わる』」と報じている。沖縄タイムス編纂(へんさん)の『鉄の暴風』のことで、筑摩書房が復刻し「ちくま学芸文庫」から出版され累計販売部数が10月までの約5カ月間で4刷、約7700部で好調な売れ行きだと手放しで褒めちぎっている。

軍命令説に根拠なし

だが、『―暴風』ほど胡散(うさん)臭い戦記は他に例を見ない。とりわけ渡嘉敷島で軍命令によって住民が「集団自決」したとする記述は、作家の曽野綾子氏が同島を詳しく取材し、著書『ある神話の背景』(初版、73年)で遺族年金を受け取るための偽証が基になったと証し、軍命令説には根拠がないとしている。

このことは歴史家の秦郁彦氏の『沖縄戦「集団自決」の謎と真実』(PHP)にも詳しく載っている。本紙読者なら『真実の攻防』(2007~08年連載、電子版参照)や沖縄のドキュメンタリー作家、上原正稔氏による「歪められた沖縄戦史 慶良間諸島『集団自決』の真実」(18~19年連載)でご存じの通りだろう。

作家の大江健三郎氏は『―暴風』を引き写した著作『沖縄ノート』を巡って元守備隊長や遺族らから名誉毀損(きそん)で訴えられたが、裁判では集団自決命令は「証拠上断定できない」としながらも軍の関与も否定できないとされ名誉毀損を免れた。が、これをもって『―暴風』の信ぴょう性が認められたわけでは決してない。

沖縄タイムスが『―暴風』を編纂した経緯を知らないと真実に迫れない。それを若干紹介すると、終戦直後、米軍は住民宣撫工作を行う機関紙として「ウルマ新報」(現在の琉球新報)を発刊したが、「離日政策」をさらに徹底するため48年、米軍対敵諜報(ちょうほう)部隊(CIC)の管理下で沖縄タイムスの創刊を許可した。同7月1日付の「創刊のことば」は「アメリカの軍政に對する誠実なる協力」を謳っている。

GHQの計画の一環

同紙が『―暴風』を企画した際、執筆者として抜擢(ばってき)されたのは、琉球列島米国民政府の下部組織だった沖縄民政府から移ってきた伊佐良博氏である。記者経験がなく、後に作家に転身(ペンネーム、太田良博)したようにフィクションを得意とした人物だ。朝日記事には「沖縄各地を回って住民から話を聞き、手記や日記を集めるなどして記事をまとめた」とあるが、CIC情報が基になった「作品」と言ってよい。

沖縄タイムスが『―暴風』を出版するや座安盛徳専務(当時)が上京しマッカーサー元帥と会見(50年5月、同紙のスクープ記事となった)、同著を朝日新聞に持ち込んで本土での出版にこぎ着けた。『―暴風』は戦争への罪悪感を日本人に植え付けるGHQの宣伝計画「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(WGIP)」の一環とみてまず間違いない。

朝日には「真実」に迫ろうとした形跡がない。「事実かどうか確認できていなくても(シンパの)読者が喜んでくれるならいい」とでも言うのだろうか。それではSNSに対して胸を張る資格がない。

(増 記代司)

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