停戦発効も衝突発生
イスラエルとイラン系イスラム教シーア派組織ヒズボラが11月26日、停戦合意を交わした。発効後間もなく、双方が合意違反を主張、一部で衝突が発生するなど、停戦が続くかどうかは予断を許さない。
イスラエル紙エルサレム・ポストによると、ヒズボラの指導者カセム師は29日、テレビ演説で、「われわれは勝利した。敵はヒズボラを破壊できず、抵抗を終わらせることはできなかったからだ」と勝利宣言。一方のイスラエルのネタニヤフ首相は26日、ヒズボラが合意を破れば、「厳しく対処する」と強気の姿勢だ。
レバノン国軍が南部をコントロールすると言うが、強力なヒズボラの前に国軍による支配の継続はそもそも無理筋だ。
ヒズボラ再建を画策
そのような中、ニュースサイト「タイムズ・オブ・イスラエル(TOI)」は「イランは停戦を、ヒズボラを立て直すチャンスとみている」との見方を伝えた。
米紙ワシントン・ポストがヒズボラに近い筋の情報として伝えたところによると、「イランはヒズボラの再建と存続のために資金を充て、シーア派コミュニティー内の支援を維持する用意をしている」と言う。
停戦は60日、その間に武器弾薬をため込み、再び、攻撃ということになるのか。これまでにも見てきた光景であり、イランという後ろ盾があり、「イスラエル破壊」という大目標がある限り、「イスラエル・ヒズボラ戦争」が終わることはない。
一方で、停戦合意に合わせるかのように、翌日の27日、隣国シリアで大きな動きがあった。アサド政権側支配地である北部のアレッポで反政府勢力が蜂起し、南のハマにまで進出、さらに南方にある首都ダマスカスをうかがう勢いだという。
ロシア・メディアによるとロシアは早速、戦闘機を飛ばし、反政府勢力を攻撃、反政府勢力側に死者が出ているという。アサド政権が内戦で優位に立てたのは、反政府勢力に一体性がなかったこと、さらには欧米からの支援が絶たれたこと、そして最大の要因はロシアとイランからの軍事支援だ。
2014年の「マイダン革命」を冠したウクライナのニュースサイト「ユーロマイダン・プレス」は12月1日、X(旧ツイッター)に「解放されたアレッポからウクライナへ愛を込めて」と投稿、「独裁者は倒れる。突然倒れる」と訴えた。この「独裁者」はシリアのアサド大統領とロシアのプーチン大統領だろう。
石の上にウクライナ、シリア両国旗と、「スラバ・ウクライニ(ウクライナ万歳)」の文字が書かれた現地からの写真を掲載し、「写真は、シリアの反体制派に対するウクライナの背後での支援を反映していると思われる。われわれの情報筋によれば、ウクライナはおそらく無人偵察機と、優れた情報に基づく後方支援と軍事的助言を提供した。それ以前にも、ウクライナはアフリカで反ロシア勢力を支援してきた」とシリア反政府勢力への支援を明確にした。
「モグラたたき」状態
さらに玉突きのように、旧ソ連構成共和国ジョージアでも、大規模な反ロシア抗議デモが発生した。
ユーロマイダン・プレスは1日、「グルジアの人々は反撃している」と指摘、「機動隊の暴力、大量の催涙ガス、化学物質を含んだ放水にもかかわらず、EU(欧州連合)統合に反対する親ロシア派政府への抗議デモ隊は、バリケードを築き、爆竹を使って警察に反撃している」と伝えた。
ロシアは、アフリカでもプレゼンスを強化している。民間軍事会社(PMC)を使って政権に取り入り、フランスなど欧州排除の動きが出てくる一方で、内向き米国はアフリカへの興味を失っている。「世界に真空地帯は存在しない」と言われる通りだ。
イスラエルとヒスボラの停戦が交わされ、パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスはほぼ壊滅状態にある。それに連動するかのように他の地域で衝突が起きる。まるで「モグラたたき」だ。
「世界の警察」をやめた超大国、米国のトランプ次期大統領は混沌の世界情勢にどう対処するのか。
(本田隆文)