「途上国」を隠れ蓑に
アゼルバイジャンの首都バクーで開催された国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)で、先進国から途上国に提供する気候変動対策資金の額が一気に3倍増の3000億ドル(約46兆4000億円)に跳ね上がった。地球温暖化は先進国が排出した二酸化炭素などの温室効果ガス(GHG)が原因との見立てがあるからだ。
これに対し産経は26日付主張「COP29閉幕 中印の脱途上国が必要だ」で、「現行の資金提供の枠組みには看過できない矛盾が根を張っている」とし「経済大国に成長した中国は世界1位のGHG排出国であるにもかかわらず、国連気候変動枠組み条約では『途上国』の位置づけなのだ。排出量3位のインドも同様だ」として、両国は資金拠出側に加わるべきだと主張した。
これまで中国は、発展途上国という隠れ蓑(みの)を使って多くの利益を得てきた歴史がある。長く続いた日本からの政府開発援助(ODA)にしても、中国自体が他国にODAを出しながら、日本からのODAを享受してきた。他国を援助できるパワーがあれば、外国から支援を受ける必要はないはずだが、取れるところからは取るという現実主義者である中国は、「途上国」として支援を受ける一方で、途上国に資金を供与することで政治的影響力増大を図ってきた。
気候変動の新たな星
その中国は国内総生産(GDP)において日本を抜き、米国に次ぐ世界第2位にある経済大国だ。しかも人口14億人を擁する中国は、GHG排出量において世界第1位だ。大気を一番汚し、しかも経済大国の中国が、先進国から資金供与を受けて脱炭素社会構築に動き出すというのは、産経の言う通り論理矛盾もいいところだ。
経済成長著しいインドにも似通った構造がある。国際通貨基金(IMF)の推計によると、インドのGDPは2025年に4兆3398億ドル(約670兆円)となり、日本を抜いて世界4位に浮上する。
なお今回のわが国のCOP29報道では、報じるべきテーマにもやがかかってしまったことが気になった。そのテーマとは、脱炭素社会の主役になれるはずの原子力発電だ。「これまで疎んじられた原子力は、気候変動の新たな星」。15日付米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は、COP29の論評記事でこう伝えた。
今回の会議では、COP29議長国アゼルバイジャンのシャフバゾフ・エネルギー相と国際原子力機関(IAEA)のグロッシー事務局長が、エネルギー計画分野における協力に関する覚書を締結した。その折にシャフバゾフ氏は「アゼルバイジャンは、将来的にクリーンエネルギーとして原子力がエネルギーミックスの一部になる可能性があると見ている」と述べた。
原発は悪の固定観念
豊富な石油・天然ガス資源に恵まれ、これまで原発と縁の無かったアゼルバイジャンが、原子力の価値を積極的に評価したのだ。さらに「原子力三倍化宣言」に、エルサルバドルやカザフスタン、ケニア、コソボ、ナイジェリア、トルコの6カ国が新たに署名し、同宣言を支持する国の総数は31カ国となったし、米政府は、50年までに2億キロワットの原発容量を導入し、現在の約1億キロワットの設備容量を3倍化する計画の枠組みを発表した。
こうした会議の新局面が日本の新聞紙面では伝わってこない。わが国では、東京電力福島第1原発事故がトラウマのようになって、「原発は悪」といった固定観念から脱却できておらず、会議を取材した記者の目の節穴ぶりが露見された格好だ。
発電時に二酸化炭素を排出せず、安定的に大容量の発電能力を持つ原発は地球温暖化防止に役立つ優れ物だ。人工知能(AI)利用の急速な広がりや情報通信技術(ICT)の深まりで、世界的な電力需要拡大が見込まれる中、原発に再評価のスポットライトが当たるのは当然だ。
(池永達夫)