成長ペース鈍いまま
16日付日経「賃金と消費の好循環へ長期の戦略を急げ」、19日付読売「先行きのリスクに備えを急げ」、本紙「十分な物価高対策が必要だ」――。
2024年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値が、実質年率で前期比0・9%増と2期連続のプラス成長になったことを受けての掲載各紙の社説見出しである。
政府が月内にもまとめる経済対策を前にしたGDPであるだけに、社説掲載が前述の保守系3紙だけなのは残念である。
7~9月期GDPについて、日経は「賃金の高い伸びにもかかわらず、日本経済の成長ペースは鈍いままだ。個人消費は底堅さをみせたが一時的な要因も多い」と評した。
他の2紙も概(おおむ)ね評価は一致しているが、列挙した見出しの通り、結論が思ったより異なるものとなった。
日経は長期的視点から次のように説く。「政府は短期の需要刺激策を重ねてきたものの、長引く物価高もあって消費者心理の改善は弱々しいままだ。消費の回復を確かなものにするには、経済全体の生産性を引き上げ、賃上げを持続させる長期的な成長戦略が欠かせない」
経済対策に対しては、「賃金と消費が持続的に増える好循環には短期の効果しか見込めない減税や給付を繰り返すより、企業に人や設備への投資を促す仕組みを整える策が有効だ」である。
当面の対策ない日経
確かにその通りで正論だが、同紙が言う通り、長期的な視点の話で、当面の具体策についての言及がない。あるのは、「特に人手不足の制約を乗り越えるには、労働者の技能を高め、成長分野に移動しやすくする具体策が求められる」として、与野党に対して、「長期的な成長につなげる対策づくりを急いでほしい」ということなのである。
次に読売だが、同紙の言う「先行きのリスク」とは、特に輸出環境を指し、中国の景気停滞やトランプ次期米大統領の高関税発言などから、「輸出は今後、さらに打撃を被る可能性がある」とする。そのため、「外需頼みではなく、内需を拡大することが不可欠だ」というわけである。
ただ、その内需では「最近の円安・ドル高は、物価高を助長して家計を苦しめている」として、企業に対し「600兆円を超える内部留保を活用せずに抱えていては、物価高を克服する賃上げと投資の好循環は実現しない。大企業が高い賃上げを先導し、中小企業にも恩恵を広げてもらいたい」と注文。政府には「賃上げ優遇税制などの施策をさらに練ってほしい」「技術革新に向けた投資を後押しすることも大切だ」と指摘する。
「バラマキ政策」批判
もっとも、これらは「リスクに備えを」と言われる以前から、「先行きのリスク」に関係なく指摘されていることである。企業も政府も既に取り組んでおり、その程度とスピード感をもっと上げよ、ということなのだろうが、特に企業では輸出環境が悪く、2024年9月中間決算が減益という状況では実行しにくい面があるのではないか。
経済対策に対しては、低所得世帯への給付金支給や電気・ガス料金への補助再開などが検討されているが、同紙は「そうしたバラマキ的な政策では、日本経済の成長力は高まりそうにない」と批判するのみで、代案がない。必要がないということであろうか。
これら2紙に対して、本紙は当面の対策として経済対策に、見出しのように求めた。「物価高が依然として成長の重しになっており」、「(電気・ガス代)補助が再開された9月でさえ、実質賃金がマイナスとなれば、補助が終わる11月以降の賃金環境はさらに厳しくなることが予想される」からである。
長期的な視点はなかったが、トランプ次期米政権で財政拡張的な政策が取られた場合、円安を招き、輸入物価の上昇につながる恐れを指摘し、当局に賢明な対処を求めた。物価高要因となるだけに当然の指摘か。
(床井明男)