史上まれに見る結果
米大統領選は「史上まれに見る接戦」の予想が、ドナルド・トランプ氏の「史上まれに見る圧勝」で終わった。元大統領が間を置いて再選したのも2例目だから、これも「史上まれに見る」結果だった。
どうして予想が外れたのか。ニューズウィーク日本版(11月19日号)が「またトラ」を特集している。タイトルは「トランプの地滑り的勝利には理由がある」だ。理由があったのに、なぜ「接戦」を予想したのか、またその接戦予想を丸呑(の)みして日本に送っていた特派員たちは何を見落としていたのか。
この記事を書いた「同誌コラムニスト・ジョージタウン大学教授のサム・ポトリッキオ」は「20年前には絶滅の危機と評されていた共和党の支持基盤が広がった」としている。「かつての民主党は、黒人や中南米系など人口増加の著しい有権者層を味方に付けていた」が、その「中南米系の男性」「黒人男性」の支持でトランプ氏がカマラ・ハリス氏を上回り、「民主党の牙城」と言われる州でも彼らの支持を得ていった。
さらに同教授は「トランプはこの国の時代精神を最も鋭く読み取っている」とし、「一部のエリートに対する大衆の怒りを、ほとんど直感で理解している」と指摘する。今や民主党の主流は「高学歴、富裕層、リベラル」だ。事実、選挙資金も民主党の方が多かった。ハリス陣営は3億7700万㌦、一方トランプ陣営は3億2700万㌦だ。イーロン・マスク氏の“ばら撒(ま)き”ばかりが目立つように報道されたが、実際には民主党の方が資金を集めたのである。
「エリートに対する大衆の怒り」は黒人や中南米系だけが抱いているわけではない。「プワーホワイト」つまり白人の中産層以下が圧倒的に多い。彼らは移民労働者に職を奪われ、長年の経済政策で苦境に置かれてきた。同誌は指摘していないが、ポリティカルコレクトネスで“割を食った”のも彼らである。
ネットの訴求力軽視
「ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストであるデービッド・ブルックス」は「高学歴の者は祭り上げられ、その他の者は姿が見えない。特に男子はきつい。高校生になると成績上位10%の3分の2は女子で、下位10%の約3分の2が男子だ。学校教育は男子に味方しない。それが個人の一生にも国全体にも影響を及ぼす」と述べている。
これを同教授は「地位の喪失」と言った。性別、人種、貧富の階層が変化し、わずかであってもその待遇を失えば「喪失感」を味わい、逆転していった者らへの反感が「復讐(ふくしゅう)心」となる。これをトランプ氏は直感的に感じ取り、彼らに刺さる政策を打ち出していったわけだ。
逆にこの変化を読めなかったのが「主流メディア」である。「庶民の感覚からもずれている」のに加えて、ポッドキャストやX(旧ツイッター)の訴求力を理解していなかった。主要紙購読者数の「30~40倍」が閲覧されている。わが国でも地上波とネットの影響力が逆転しつつある。
進歩主義的主張嫌う
一方「なぜハリスは負けたのか」を「フォーリン・ポリシー誌コラムニストのマイケル・ハーシュ」が分析する。副大統領としての実績がなかったことなど、終わってみれば理由は幾つも出てくるが、端的に言って「労働者階級の支持を取り戻そうとしたものの、進歩主義的過ぎる主張が彼らを遠ざけてしまった」ことが負けの主要因だ。
バイデン政権の経済政策はうまくいっていたが、「経済に代わって文化が有権者の投票行動に大きな影響を与えるようになったというアメリカ政治における地殻変動」を読み取れていなかった。
「公立学校の運動部でトランスジェンダーの生徒の試合出場を擁護したり、政治的な理由でアーティストや知識人の起用を取りやめたりする姿勢は、進歩主義的過ぎると労働者階級にそっぽを向かれる原因」となった。リベラルなイデオロギーに立てば、そっぽを向く方が「保守的、右翼的」に見えるのだろう。しかし「文化の変化」を読めず取り残されたのは彼ら民主党だったのである。
この他、同誌は「世界の戦争の気になる行方は?」などを掲載している。せめて今後の変化では読み間違いをしないよう「主流メディア」には望みたい。
(岩崎 哲)