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拡大抑止つなぎ止めの脅しか?

2019年5月26日、千葉県茂原カントリークラブで行われたゴルフゲームで、安倍晋三首相がパットを決めるのを見守るドナルド・J・トランプ大統領(UPI)
2019年5月26日、千葉県茂原カントリークラブで行われたゴルフゲームで、安倍晋三首相がパットを決めるのを見守るドナルド・J・トランプ大統領(UPI)

韓国自体の核武装論

韓国ではトランプ氏再登板が引き起こした現象が二つある。一つは尹錫悦大統領がゴルフの練習を始めたことだ。2016年、安倍晋三首相(当時)が当選直後のトランプ氏を訪ねて高価なゴルフクラブをプレゼントし、それ以降、国内外で5回もラウンドして“蜜月関係”を築いたことに倣ったものだ。

もう一つが「核武装論」の再登場である。トランプ政権が拡大抑止を続けるかどうか、電撃的にまた北朝鮮の金正恩総書記と会合して、日米韓の安保協力体制が揺らぐのではないか、北朝鮮は核・ミサイル開発の“完成段階”に入っているし…、そういった疑心から、韓国自体で核武装すべきだとの強硬論がまたぞろ頭をもたげているのだ。

新東亜(11月号)で「緊急座談会」が行われ、趙(チョ)漢凡(ハンボム)統一研究院客員研究員と鄭(チョン)成長(ソンジャン)世宗研究所韓半島戦略センター長が対談している。同誌は「両専門家は異口同音に『今は北朝鮮の核脅威が実存する非常な状況』とし、『われわれも独自の核武装を急いで進めなければならない』と強調した」と伝える。

韓国が核武装しなければならない理由を両氏は以下のように挙げている。

もしトランプ氏が金正恩氏と会談し、米国に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)を諦める代わりに対北経済制裁を緩和するといった「等価交換」を持ち掛ける可能性がある。

加えて国際原子力機関(IAEA)は「北朝鮮の核拡散を防ぐ」ことだけに関心があるため、「その結果、韓国だけが北核の脅威にさらされることになる」(趙漢凡氏)。

さらにロシアが事実上、北朝鮮と「核同盟国」になり、国連安全保障理事国の一角が機能しなければ、安保理決議は「死文化する」と――いうものだ。

だから核武装しなければならないという話になるのだが、韓国の現状では自国製造の第一歩から躓(つまづ)くことになる。運搬手段(ロケット)はあるとして、プルトニウムの確保が現状ではできないからだ。朝鮮日報(11月10日付)はコラムで「韓国は、韓米原子力協定により核燃料を再処理する権限がない」と指摘している。

基本的に米国は核の拡散には猛反対する。万が一、米韓協定の改定に成功したとしても、次は「(高レベル)放射性廃棄物処分場の用地選定」が必要で、さらに再処理施設の建設までには、その都度、法案の国会通過、用地の選定、住民の説得、等々でどれくらいの期間がかかるか見当もつかない。

米韓原子力協定の改定は韓国政府の“長年の悲願”である。「日本には(再処理が)許されていて、韓国だけに許されてない」との不満もある。その先の行程がいかに長く困難でも、改定に成功することは第一歩を踏み出すことになり、微々たるものだが抑止効果はあるだろう。

もっとも、実際に核武装に至るには核拡散防止条約(NPT)から脱退、国際社会からの反発・圧力など乗り越えなければならない課題は連続している。

核武装論は勇ましいが、結局、専門家による“口だけ”の議論にすぎない。過去の核武装論が皆そうだったように、米国の拡大抑止(核の傘)を繋(つな)ぎ止めておくための脅し次元の話だ。トランプ政権にそれが利くかどうかは不明だが。

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