Homeオピニオンメディアウォッチ北朝鮮の暴走 ラックマン氏の白眉の分析を翻訳・掲載した日経

北朝鮮の暴走 ラックマン氏の白眉の分析を翻訳・掲載した日経

北朝鮮の様子(Image by WZ Still WZ from Pixabay)
北朝鮮の様子(Image by WZ Still WZ from Pixabay)

ロシアへ兵力を派遣

今秋、北朝鮮が大きく動いた。韓国との南北統一目標を正式に放棄し、韓国を和解不可能な「敵対国」と定義する憲法改正を行い、韓国との境界地域で道路と線路を複数爆破し断ち切りもした。

また、北朝鮮はウクライナ侵攻を続けるロシアへの兵力派遣に踏み切ったもようだ。ウクライナや韓国、米国が確認し、ウクライナからは北朝鮮兵と初交戦したとの報道も流れた。さらに北朝鮮は固体燃料を使った最新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星19」の試射も試みた。

北朝鮮がにらんでいたデッドラインが今月5日の米大統領選だったのは明白だ。これ以前と以後とでは天地の違いがあり、北朝鮮としては米国に新大統領が選出される前に、既成事実をつくってしまったのだ。

多くの分析記事が錯綜(さくそう)する中、参考になったのは1日付日経新聞に掲載された「西側、北朝鮮軽視のツケ」というギデオン・ラックマン氏のコラムだった。同コラムは10月28日付の英フィナンシャル・タイムズ電子版に掲載されたチーフ・フォーリン・アフェアーズ・コメンテーターのラックマン氏の記事を翻訳したものだ。

ラックマン氏はこの記事の中で、「北朝鮮研究の第一人者であるロバート・カーリン氏とジークフリード・ヘッカー氏の2人は今年1月、米国の北朝鮮分析サイト『38ノース』に寄せた共同論文で『金氏は戦争に踏み切るという戦略的決断を下した』と警告している」と紹介。カーリン氏は米国務省の北朝鮮担当チームを何十年も率いたベテランの専門家であり、ヘッカー氏は核科学者で米ロスアラモス国立研究所の元所長で、どちらも何度も北朝鮮を訪れており単なる机上の分析者ではない。

技術と資金を求める

ラックマン氏は共同論文の要旨を「金氏は米国との関係を改善する努力を放棄し、韓国および米国と対立する政策を選択した」として警鐘を鳴らし、「北朝鮮は大規模な核兵器備蓄を抱え、(中略)推計50~60発の核弾頭を保有しており、(中略)金氏の最近の言動は、それらの核兵器を使った軍事的解決の可能性を示唆している」と結論付けている。

北朝鮮が深刻な貧困と食糧不足に悩んでいる事実はあるとしても、同国があらゆる面で劣っていることを意味するわけではない。

ラックマン氏は「同国の貧困は金氏が軍事面の発展を優先し、一般市民の福祉を完全に無視している証しだ」とし、「北朝鮮は世界から孤立しているにもかかわらず核兵器の開発に成功した。これはイランやシリアという北朝鮮より豊かで、国際社会とも北朝鮮よりはましな関係を持つ国々が達成できなかったことだ」とした上で「しかも北朝鮮は弾道ミサイルも開発し、大規模なサイバー攻撃能力も有している」と指摘した。

そしてラックマン氏は、ロシアに兵を派遣した北朝鮮が見返りに求めているのは「ロシアからの技術移転と資金提供だ」とし、「金氏は、朝鮮半島で将来、紛争が起きる可能性を見据えているのかもしれない」と21世紀の朝鮮戦争を示唆する。

中国に対するラックマン氏の見識も的確だ。

北朝鮮をアジアにおける米国との重要な緩衝地帯と見なしている中国は、露朝関係の緊密化で両国への影響力低下を懸念せざるを得ないものの、「朝鮮半島の緊張が高まれば、米国にとって台湾防衛がさらに難しくなる可能性があることも理解している。米国が台湾と韓国を防衛するために用いる軍事リソースは同じものだ」とし「米ワシントンにいる一部のアナリストらは事実、朝鮮半島と台湾海峡で同時に紛争が発生する可能性をすでに考えている」と東アジアを大動乱に巻き込む最悪のケースも視野に入っていることを明かす。

台湾侵攻のシナリオ

そもそも朝鮮動乱で北朝鮮に人民解放軍を送り込んだ毛沢東は、韓半島赤化後には台湾侵攻を考えていた。毛沢東の志を受け継ぐ習近平国家主席が、そのシナリオを再現することは十分に考えられる。

安全保障の要点は、最悪のケースに備えた上で最善の策を取っていくことだ。

プーチン氏同様、東アジアの独裁者が暴走した際どう対処すべきか、国家の運命を担う政治家は考えないといけない正念場のはずだが、永田町のコップの中の嵐がもどかしい。

(池永達夫)

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »