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石破退陣論を張る保守紙と手のひら返しで続投を擁護する左派紙

首相官邸に到着した石破茂首相=31日午前、東京・永田町
首相官邸に到着した石破茂首相=31日午前、東京・永田町(時事)

「筋」を説く読売産経

「与党と国民民主 信を失った首相に協力なぜ」「自・国の政策協議 石破執行部に資格あるか」―と、石破茂首相への不信感を露(あら)わに、首相退陣論を唱えているのは朝日や毎日などの左派紙ではない。前者は読売、後者は産経。二大保守紙の2日付社説タイトルである。

読売はこう言う。「衆院選で少数与党に転落した自民、公明両党が政権を担い続けるため、野党に協力を求めること自体は間違っていない。だが、そのための手順が逆ではないのか。まず選挙で敗れた首相が責任を取って身を処し、後継の自民党総裁の下で、新たな連立の枠組みを模索するのが筋だろう」

痛烈な石破退陣論だ。産経も畳み掛ける。「衆院選に大敗した石破茂首相(自民総裁)と森山裕幹事長が何の責任も取らずに協議を進めるのは、異様な光景というほかない。石破首相と森山氏は辞任し、自民は新執行部のもとで他党と協議に臨むのが筋だと改めて指摘したい」

両紙そろって「筋」(すなわち道理)を説く。開票結果を受けた10月29日付社説でいち早く「(石破首相が)速やかに進退を決することが憲政の常道である」(読売)、「首相の居座りは許されぬ。直ちに辞職し新総裁選出を」(産経)と、石破首相に引導を渡していた。ところが、それを完全に無視して自民・公明・国民民主の3党協議へと進んでいるのである。「そりゃ、読産とも怒るわ」と筆者は思う。

一定の評価を与える

保守紙が怒れば、左派紙はほくそ笑むのである。あれだけ反自民、石破批判を繰り返してきた左派紙が石破退陣論を言い出さないから摩訶不思議。むろん、最初はちょっぴり言っていた。朝日10月28日付社説は「自公過半数割れの審判 国民から首相への不信任だ」とし、「自ら設定した最低限の目標を達成できなかった以上、石破首相は職を辞すのが筋だ」と拳を上げたが、29日付社説では「筋」を引っ込め「国民の信を失ったままでは、政権の継続は至難の業だ」と同情し、石破退陣のタの字も言わなくなった。

そればかりか、自民党と公明党、国民民主党が政策協議に入ることが決まると「開かれた場で幅広い合意を目指すこと自体は理解できる」と一定の評価を与え、「妥当性の吟味を怠るな」(11月2日付社説)と注文を加えている。いったい朝日の道理(筋)はどこに消えてしまったのか。石破首相顔負けの「手のひら返し」と言うほかない。

毎日も当初は威勢がよかった。「『与党で過半数』を勝敗ラインと定めた首相の責任を問う声が出るのは避けられまい」(28日付社説)としていたが、舌も乾かぬうちに「責任を問う声」を忘れ、3党協議に対しては「政治改革より数合わせか」(1日付社説)と批判するも、立憲民主党や他党とも論議せよと石破続投を前提に論を進めている。東京も似たり寄ったり。左派紙は雁(がん)首を並べて「石破擁護」なのだ。石破延命の方がよほど都合がいいのだろう。

計算された褒め殺し

産経の榊原智・論説委員長は2日付コラム欄「風を読む」で、石破首相の支持率は低迷しているが「(共同通信の世論調査では)石破首相の辞任を求めたのは28・6%で辞任不要は65・7%と、石破首相がすがりつきたくなるような数字も出た」とし、これを次のように読み解いている。

「一見矛盾する結果だが、自民と公明党の連立を弱体化させるには石破首相続投がよいとみなす野党支持者が辞任不要の回答者に含まれるのかもしれず、自民は油断しない方がよい」

榊原氏は責任を取らない石破首相では反転攻勢はできないと断じる。来年の通常国会では「手のひら返し」政策をはじめツッコミどころ満載で、野党は戦いやすい。石破政権の方が来夏の参院選も有利だ。そんな計算が左派紙にも働いているのなら、石破続投擁護の狙いははっきりしている。それはほめ殺しである。

(増 記代司)

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