核兵器保有へ転換か
イラン・イスラエル間の緊張が高まり、報復合戦の様相が強まっている。イランは核兵器保有へと舵(かじ)を切る可能性を示唆。元米フロリダ州知事のジェブ・ブッシュ氏は米紙ワシントン・ポストへの論考で、「イランに最大限の圧力を」と訴えた。
カタールの衛星テレビ局アルジャジーラによると、イランの最高指導者ハメネイ師の顧問で元外相のカマル・カラジ氏は1日、これまで最大2000㌔までに制限してきた弾道ミサイルの射程を延ばし、さらに核兵器を持たないとしてきた方針を転換する可能性を示唆した。
レバノンの親イラン衛星放送局マヤディーンの取材に答えたものだ。
イランから2000㌔にはイスラエルが含まれ、中東に駐留する米軍を射程内に収めることを想定して定めた数字だという。
また、核兵器を持たず、核開発は平和目的のみとしてきたこれまでの「核ドクトリン」の変更を示唆したのは、やはり核保有国のイスラエルへの牽制(けんせい)を意図したものだろう。イランと対立する中東のアラブ諸国にとっても、イランの核武装は安全保障上重大な意味を持つ。また、イランの核開発を制限してきた核合意は、米国の離脱で機能しておらず、イランとしてはいつでも核兵器を開発できる意思と技術があることを示した格好だ。
報復合戦となる恐れ
一方で、このところイランとイスラエルの攻撃の応酬が続き緊張が高まっている。
イスラエルは4月1日、シリアのイラン領事館を攻撃、イランの精鋭、革命防衛隊幹部らを殺害した。これを受けてイランは14日、イスラエルにドローン、ミサイルで大規模な攻撃を行った。イランによるイスラエルへの直接的な攻撃はこれが初めてだったが、大部分が迎撃され、軍事作戦としては失敗とされている。
また、10月1日にはイランがイスラエルを再度攻撃。これは、パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスのハニヤ氏、レバノンのシーア派組織ヒズボラの最高指導者ナスララ氏らの殺害に対する報復だ。だが、イラン、イスラエルとも、事態のエスカレートは望んでいないとみられ、報復は対外的には国家としてのメンツを保ち、国内には対イスラエルで示しを付ける意味合いがあるとされてきた。
ところが、イランの最高指導者ハメネイ師が2日、エスカレーションにつながるような発言をしたことが波紋を呼んでいる。
国営メディアで公開した動画で、「敵、それがシオニスト政権であれ米国であれ、イラン、イラン国民、抵抗戦線にしたことに対し、必ず壊滅的な対応を取る」と、報復へ強い姿勢を示した。
イスラエルは10月26日にシリア、イラク、イランに対して大規模な攻撃を仕掛け、防空施設、ミサイル製造施設などを破壊しており、これに対する報復を示唆したもの。
融和的な姿勢を非難
一方でワシントン・ポストは10月31日、次期米政権にイランに対する圧力の強化を求めるブッシュ氏の論考を掲載した。ブッシュ氏は「次期大統領が行う外交政策は、イランに関して、2001年の同時多発テロ以来特に重要なものとなる」と強調、「テロ支援国イランに対して、弱い、優柔不断なアプローチを取り続けるのか、過去に奏功した強硬策を復活させるのか」と訴えた。イランに対し融和的な姿勢を取ってきたバイデン政権の「不十分な軍事行動、効果のない外交、一貫性のない制裁」を非難するとともに、18年にイラン核合意を離脱し、制裁を強化したトランプ前政権の政策の復活を呼び掛けるものだ。
ブッシュ氏はその上で「制裁主導の『最大限の圧力』を復活させることは、不安定化につながるイランの活動に対抗する米国のコミットメントを再確認することになる」と訴えた。
イランは、ハマス、ヒズボラ、イエメンのフーシ派を支援、これらは地域の不安定化につながっている。核武装への転換の可能性も看過できない。(本田隆文)