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相次ぐインサイダー取引疑惑に実態解明と再発防止求めた保守系紙

株価チャートのイメージ

東証社員ら強制調査

24日付読売「職業倫理を踏みにじる行為だ」、産経「裁判官が不正に走るとは」、25日付日経「インサイダー疑惑の解明急げ」――

裁判官や東京証券取引所の社員など最近相次いでいるインサイダー取引疑惑について、社説で論評を掲載した3紙の見出しである。掲載した3紙は列挙した通り、保守系紙だけで左派系紙はなかった。

インサイダー疑惑は25日にも東京都の30代男性弁護士ら5人の事案が明らかになり、証券取引等監視委員会が課徴金納付を命じるよう金融庁に勧告している。3紙の社説は、弁護士らの事案が報道される前の内容だが、いずれも監視委が強制調査していたものであり、その重大性からも論評して然(しか)るべきものであろう。

強制調査を受けたのは、東証で上場会社の重要情報を扱う「適時開示」の担当部署に所属していた20代の男性社員と、最高裁から金融庁に出向中の30代の裁判官。

問題なのは、約4000社が上場している東証が日本経済や金融資本市場を支える基盤であり、その金融市場を監督するのが金融庁で、どちらも当然のことながら、社員らには高い職業倫理が求められるからである。

読売と産経が見出しとして厳しいトーンなのは尤(もっと)もで、読売は「2人とも金融や法律には精通していたはずだ。ルールを知らないなど、あり得ないだろう。自分や親族の利益のため、故意に違法行為をしたと考えざるを得ない」と強調。

産経も「その(未公表の)情報で株取引するなど、市場を歪(ゆが)める、絶対にやってはならぬ不正行為である。それを本人名義で平然と行う感覚は、どうなっているのか」という具合である。特に同紙は、この問題が浮かび上がらせるのは、裁判官として当然備えるべき「矜持(きょうじ)」や「責任感」といった職業倫理が、信じ難いほど欠如している現状である、とあきれ顔である。

市場の信頼揺るがす

読売も「日本市場に対する信頼を揺るがしかねないという点でも、事態は深刻だと言えよう」とし、関係当局に対して動機や事件の背景を解明し、再発防止に努めねばならないとしたが、当然である。

冷静な見出しながら、「金融庁も東証も、市場の公正を守る重い役割を担う組織である。不正が疑われるような事態に至ったことを憂慮する」と懸念するのが日経である。

同紙は、監視委の強制調査は不正の証拠の収集などが目的だとして、「インサイダー取引が事実なら、極めて重大な問題である。監視委は丁寧かつ迅速に実態解明を進めてほしい」と要望する。

その背景を、同紙は経済紙らしく次のように説明する。

日本ではM&A(合併・買収)が経営戦略として重みを増し、TOB(株式公開買い付け)も定着してきた。M&A関連のインサイダー取引を防ぐ重要性はいっそう高まっている。特に企業価値向上の旗振り役でもある金融庁・東証には、情報管理の厳しい規律が求められる――

時代の「負の産物」か

そんな日経が金融庁や東証に望むのは、「不正防止の体制が十分か、改めて見直す必要があろう」ということ。また、同紙は企業や投資家、証券会社などもインサイダー取引が犯罪であることを再度、肝に銘じたいとしたが、大手マスコミも然りであろう。

2006年には日経社員が法定公告の掲載前に株式を取得して東京地検特捜部に逮捕されたり、08年にはNHK記者ら3人がニュース放送前に株式購入し、金融庁から課徴金納付命令を受けるという事案があったからである。

政府が「資産運用立国」構想を進め、日経が指摘するように、新NISA(少額投資非課税制度)が始動し「貯蓄から投資へ」進みつつあるタイミングに起きた3件のインサイダー疑惑は、時代の負の産物なのか。

読売は、公共のために働く誇りや責任を見失い、簡単にお金を得ることばかり考える風潮が強まっているのだとしたら、由々しきことだとしたが、個々人のモラルの問題と思いたい。(床井明男)

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