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歴史的視点で現在の世界の政治・経済動向を分析したエコノミスト

感情的分極化進む米

「賢者は歴史から学び、愚者は経験から学ぶ」という言葉を残したのはナポレオンだが、現代こそ歴史から打開策を見いださなければならない時代はないであろう。ロシアによるウクライナへの一方的な軍事侵攻、ハマスのテロ行為に端を発したイスラエルの報復攻撃の拡大は、まさに両国、両地域の歴史の足取りを探ってみなければ解決の糸口が見えてこない。

そうした中で週刊エコノミスト(10月15・22日合併号)は、歴史的視点から経済的側面を加えて現在の世界の動向について分析した。「歴史に学ぶ世界経済」と題された特集には、米国の建国史や第1次世界大戦前夜と現在、また金を中心とした金融政策の歴史、さらには覇権通貨としてのドルの現状と今後の見通しなど興味深い記事が並ぶ。

とりわけ、米国の歴史をひもときながら現在米国で繰り広げられている大統領選について興味深い記述があった。そこには上村剛・関西学院大学法学部准教授が次のように論じている。「(トランプ氏とハリス氏)双方を支持する有権者の、自分とは異なる政党への憎悪が増しているようにみえる。さらには2021年の連邦議会議事堂の襲撃事件や、トランプ大統領候補の銃撃事件のように、事は決して穏やかではない。…近年の米国政治で注目されているのは(イデオロギー的分極化よりもむしろ)感情的分極化だ」と指摘し、「由々しき問題である」(同)と断言。

その上で同准教授は、米国の建国史を遡(さかのぼ)り、米国憲法制定時(1787年)の議論の様子を誌面に載せている。「今日の12の邦(現在の州のこと)から集まった代表は、内乱が起こるのではないか、と参加者を懸念させるような激論を数カ月間交わした」と当時の状況を語り、「建国当初の米国は、いつ滅んでもおかしくない弱小国だった。だからこそ、決定的な対立や、まして内乱は防がねばならない。そのような意識もまた、建国者たちには共通のものだったのだろう」と内乱に至らなかった点を挙げ、さらに当時のリーダーたちが「国を守るという崇高な思いを抱いていた」ことについて言及している。

政策論よりあら探し

振り返って、わが国を見ると、今まさに衆院選挙という国のリーダーを決める選挙が繰り広げられているが、与党と野党の論戦を見れば、国の方向性を決める政策論よりは党や候補者へのあら探し、魔女狩り的なレッテル貼りの人格攻撃に終始しているのは、あまりにも浅薄で嘆かわしいとしか言わざるを得ない。それでなくとも日本は、中国、ロシア、北朝鮮といった核保有国に対峙(たいじ)し、とりわけ中国は東シナ海、南シナ海に覇権を握ろうと画策している実情がある。党の議席を伸ばす前に、米国の建国者が信念としていた「自国を他国から守る」という意識を持ってもらいたいものである。

エコノミストは、「現代の国際情勢は、第一次世界大戦(1914~18年)前夜の状況と多くの点で相似している」(作家の板谷敏彦氏)と説く。「大戦勃発時、…割に合わない戦争は起こるはずがないと信じる人が多かった。だが、多くの予想と裏腹に戦争は勃発してしまった」(同)と振り返り、仮に中国が台湾に侵攻した場合、「限定的な紛争として処理できると判断した時、人類には次の大過が待ち受けているかもしれない」(同)と警鐘を鳴らす。

まさに「戦争の世界」

スウェーデンのウプサラ大学の調査によれば、2022年1年間に起こった軍事衝突は世界で55に上るという。「世界は今、まさに『戦争の世界』に入っている」と語る東大作・上智大学グローバル教育センター教授は、「国家の主権と国境がないがしろにされ、“虐殺”すらも行われる時代になった。こうしたことが当たり前になれば、19世紀的な世界に逆戻りしてしまう」と危機感を募らせる。

国内外を通して、「今何かがおかしい」と感じる人は多い。そういう時こそ、われわれ人類は歴史をひもとき、学び直す必要がある。

(湯朝 肇)

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