
ご祝儀相場全くなし
石破茂首相が誕生した。「後世に残る激闘」と週刊新潮(10月10日号)が言うように、まさに高市早苗元経済安保相との激しいトップ争いを展開し、自民党の魔訶(まか)不思議な力学が働いて、5度目の挑戦で大権を手にした。
ご祝儀相場というが、逆にいきなり「石破ショック」が襲う。金利発言をきっかけに株価が下落し、円安に振れた。まだ首相に指名されてもいないうちの解散表明には野党が猛反発し、石破新内閣も「だらしない」とか感情的な批判が飛び交い、評価は散々だ。党人事では麻生太郎氏を実質何の権限もない「最高顧問」にし、総務会長を打診した高市氏からは固辞された。
総裁選前、ネットでは「石破氏」「中華料理店」が検索ワード上位にきていた。これは最初週刊新潮(8月29日号)が報じ、週刊文春(9月19日号)も1カ月後になって取り上げたもので、石破氏が7月に菅義偉元首相と武田良太元総務相と高級中華料理店で会食し、その際、総裁選の話はせずに、誘っておきながら、支払いは菅氏にさせたというものだ。石破氏の“ドケチぶり”を示すエピソードである。
こんな人に人を引っ張っていく力があるのか、国民の人気は高いが、議員の間で支持する人は少ない石破氏の“限界”を示す話として流布したのだった。
戦い済んで週刊誌は新首相をどう報じたのだろうか。週刊文春(10月10日号)は「石破茂新総理を操る2人の“女帝”」として、夫人の佳子氏(68)と首相秘書官の吉村麻央氏(52)を取り上げた。その中で石破氏と吉村氏の関係を探っているが、どこをどうほじくっても2人が“深い関係”との話は出てこない。
あろうことか、佳子夫人にも質問をぶつけている。「秘書の吉村氏が愛人だと書かれたこともある」と聞くと、夫人は「早い話、書かれることは気持ちよくないですよ」と答え、「逆に何かおかしいことがあったら教えてね(笑)」と切り返した。石破氏本人にも聞くが「全くない」と言下に否定。「奥様と吉村氏どちらが大事?」には、「奥さんとしてあれ以上の人はいないので。仕事ができるということで言えばそりゃ吉村でしょ」と返している。
週刊誌とは因果な商売だ。「どちらが大事?」などとよく聞けたものだ。しかも、この2人の女性のどこが「女帝」なのかが分からない。見出しで打つ以上、女帝っぷりを書かねばならないのに、これでは羊頭狗肉(くにく)だ。
「クソ真面目」石破氏
他に「石破氏の政治資金収支報告書を確認すると、いわくつきの“金満家”との関係が判明した」として、医療法人グループ「錦秀会」から寄付を受け、パーティー券を買ってもらったと書いている。同法人の代表は「日大医学部付属板橋病院の建て替え工事を巡る背任事件で逮捕」された藪本雅巳氏だ。
同誌は「石破氏の意外な金脈である」というが、政治資金規正法上何か問題でもあるのか。とかく、新首相や新閣僚が出てくれば「金と女」を探りたがるが、誰もが認める「堅物」「クソ真面目」の石破氏から、取りあえずそんな話は出てこない。それよりも首相としての資質をもっと問い詰めるべきだろう。
「包容力なき雄弁家」
一方、週刊新潮(10月10日号)は「包容力なき雄弁家『石破茂』研究」として、政界に出た経緯や自民党を離党して新生党などを巡った事情、石破氏の人柄、等々、同氏を知る関係者に聞き回っている。そこで出てくる石破茂像は「勉強熱心」「人付き合いが悪い」「子分の面倒を見ない」「永田町の常識を学んでいない」「うしろから鉄砲を撃つ」「論理的に煮詰まっていないところがあると許せないので徹底的に追求する」「だから永田町で面倒くさがられる」「元々政治家には向いていない人だと思う」「総理になる資質にはそもそも欠けていた」などとけちょんけちょんなのだ。そのラベリングが「包容力なき雄弁家」というわけで、これは見出しと中身が一致している。
最後に政治アナリストの伊藤惇夫氏が言っている。「“石破のためならば”というチームが作れていない」と。新潮らしい落ちの付け方だ。
(岩崎 哲)