ヒズボラ最高指導者殺害はレバノン情勢の「転換点」と指摘する英紙

国連総会第79回総会一般討論で演説するイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相=9月27日、ニューヨーク(UPI)
国連総会第79回総会一般討論で演説するイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相=9月27日、ニューヨーク(UPI)

シンワル氏殺害否定

「ハマスのシンワルは死んだのか、イスラエルはヒズボラのハッサン・ナスララを殺害するのか」。英ニュースサイト、ニュー・アラブは23日、昨年10月からのイスラエルとの戦いで、パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスとレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの幹部の多くが既に死亡したことを受けてこう報じた。両組織とも、イランの支援を受け、イスラエルの殲滅(せんめつ)を大きな目標に掲げている。

ヤヒヤ・シンワル氏は現在、ハマスの最高指導者であり、22日にイスラエルの空爆で死亡したと伝えられた。だが、イスラエルの情報機関はこれを否定、ニュースサイト、タイムズ・オブ・イスラエルも「根拠のない臆測」と伝えた。

シンワル氏は、7月にイラン訪問中に殺害されたハマス最高指導者イスマイル・ハニヤ氏の後継だが、イスラエル軍の追跡を受け、ガザ地区内を転々としているものとみられている。

ニュー・アラブによると、「イランはハニヤ氏殺害に対し報復を宣言したが、今のところ実行されていない」。ハマス、ヒズボラ、イエメンの親イラン武装組織フーシ派といった「代理組織」への支援は積極的に行っているようだが、イスラエルと直接事を構えることには慎重だ。

ヒズボラに標的移る

それを見越してか、イスラエルの攻撃はとどまるところを知らない。すでにガザ地区のハマス大隊の大部分は壊滅状態にあり、攻撃の主要な標的はヒズボラに移ったようだ。今月中旬にはレバノン、シリアで、ポケベルや無線機が一斉に爆発、レバノンでは十数人が死亡し、数千人が負傷した。イスラエルが関与しているとみられ、「テロ」「無差別攻撃」(カタールのアルジャジーラ)など、非難の声が上がった。一方で、「ヒズボラの士気と信頼に打撃」(英ガーディアン紙)を与えたとみられている。

28日にはイスラエル軍の空爆によって、ヒズボラの最高指導者ナスララ師が死亡したことが伝えられた。イランにとっては、ハニヤ氏の死亡以上の打撃となるはずだ。イスラエル紙エルサレム・ポストによると「作戦には、察知されることなく、地下深くを攻撃するために大変な精度が求められた」(イスラエル空軍のレビン准将)という。

ヒズボラは1982年に発足、ナスララ師が最高指導者となったのは92年であり、長期にわたって「ヒズボラの顔」でもあった。レバノン政界への影響力は大きく、軍事力はレバノン国軍を超え、同国を事実上支配してきた。

後継者は見当たらず

ガーディアン紙は、ナスララ師について「憎しみをあおってきたヒズボラの指導者 後継を見つけるのは困難」と死亡による影響は小さくないと指摘、イスラエル・レバノン間の紛争の「転換点」となるとの見方を示した。

また、「今後の影響を予測することは困難」としながらも、「ナスララ師に匹敵する地位、経験、影響力を持つ人物は見当たらない。イスラエルが、ヒズボラの内部深くから重要でタイムリーな情報を入手でき、それを基に効果的に行動できていることは間違いない」と強調、「次の指導者が誰であれ、短命に終わることになりそうだ」とヒズボラに致命的な影響を及ぼす可能性を指摘した。

イスラエルのニュースサイト「アルッツ・シェバ」によると、ネタニヤフ首相は、「ナスララは、イランの悪の枢軸の『重要なエンジン』だった」と攻撃の正当性を訴えた。ナスララ師攻撃は、ネタニヤフ氏の国連総会演説の直後であり、そこにイスラエルからの強いメッセージが込められたものとみていいだろう。

イランの最高指導者ハメネイ師も、ナスララ師攻撃直後に「警備を強化した安全な場所に移動した」ことが報じられたという。

ナスララ師の死亡は、今後の中東情勢全体の転換点となる可能性をも秘めている。

(本田隆文)

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