公選法改正では解決できず
2024年は選挙イヤーと言われている。米大統領選をはじめ、世界各国でリーダーや議会の構成員を選ぶ選挙が行われる。日本でも本稿執筆時点で、首相を決める自民党総裁選が佳境に入ったところだ。一部の候補は自身が当選したら早期に衆院解散総選挙を行うと明言しており、全国的な国政選挙が行われる日も近いだろう。
今年日本で行われた選挙の中で、特に注目を集めたのは4月の衆院東京15区補選と7月の東京都知事選だ。残念なことに、悪い意味で日本中に衝撃を与える選挙になってしまった。
まず、東京15区補選では「選挙妨害」ともいうべきやじが繰り返された。やじといっても聴衆が大きな声で言葉を投げ掛けるレベルではなく、街頭演説に意図的に街頭演説をぶつけて、演説が聞こえないほどの大音量で候補者の批判をするといった行為だ。
「妨害行為」を行った側も補選の立候補者だったため、表現の自由を巡る議論も巻き起こった。警視庁は投開票後にこれらを「悪質で重大な妨害行為」として、妨害行為を行った候補者や所属する政治団体の代表の逮捕に踏み切ったものの、選挙期間中の対処は警告にとどまった。
都知事選では選挙ポスターを巡る混乱が起きた。大量の候補者を擁立した政党がそのポスター枠を「販売」し、「購入」した人が好きなポスターを貼れると宣伝。結果、一つの掲示板に同じポスターが大量に並ぶ前代未聞の事態になった。それだけでなく、掲示されたポスターの中にはほぼ全裸の女性が写ったものなど物議を醸す表現が含まれた。明らかに他の条例や権利に抵触するものは警告などを受けて自主的に撤去されたが、ポスター枠の売買や選挙と直接関係のないポスターが並ぶことが許されるのか否かというところから議論になった。
主にポスター事件を受けて、与野党は秋に見込まれる臨時国会での公職選挙法改正を視野に協議。ポスターに候補者の記名を義務付けることや、営利目的の掲示に罰金を科すことなどで大筋合意している。
選挙は国民のためという意識を
公明党が毎月発行する機関誌「公明」10月号では、「衆院東京15区補選と東京都知事選を振り返る」と銘打った特集の前編として、選挙や投票行動などの専門家である東北大大学院准教授・河村和徳氏の論考が掲載された。
河村氏は前述したような事態を「日本の選挙民主主義を揺るがしかねない事件」としながらも、「公選法を改正すればすべて解決するのかと聞かれて、『そうだ』と答えることは難しい」と書く。公選法などによる規制は多くの国民の常識の範囲内にとどめ、それ以外のアプローチ、例えばどのような行為が警告や摘発の対象になるのかを候補者らが容易に知ることができる環境を整えることなども考えるべきだと提案した。
また規制が増えれば選挙を管理する側がチェックに追われ、審査に時間がかかるなどのデメリットがあると指摘。選挙を管理する側が置かれている環境も念頭に置いて、丁寧に議論する必要があると訴えた。
河村氏が言うようにそもそも選挙のルールが周知されていなかったり、地域によっては形骸化していることすらある。例えば沖縄では本来なら禁止されている告示前の選挙運動が常態化している。こういった部分を改めて正していくことで、新たに政治にチャレンジする人にも分かりやすく、何より民主主義の主役である国民のためにルールを順守するという意識を高めていかなければならない。