存在感高めるインドの潜在能力としたたかなモディ外交を東洋経済が分析

G20サミットで日本の岸田文雄首相と握手を交わすインドのナレンドラ・モディ首相(右)=2023年9月9日、インド・ニューデリー(UPI)
G20サミットで日本の岸田文雄首相と握手を交わすインドのナレンドラ・モディ首相(右)=2023年9月9日、インド・ニューデリー(UPI)

低い「年齢の中央値」

中国経済が鈍化傾向を見せる中、インドの存在感が増している。その要因の一つが人口増である。インドは昨年、人口が14億人を超え、中国を抜いて世界1位となった。人口が多いのは投資相手国としてそれだけで十分に魅力的だ。一方、中国が南シナ海や東シナ海で制海権を握ろうとする中、わが国は日米安保を基軸に2022年5月、日米豪印の4カ国で自由で開かれたインド太平洋の実現のための枠組み(クアッド)を構築し、対中国で連携しているのもインドの存在感を増す要因の一つとなっている。

そうした中でインドの現状を経済的側面から分析し、今後の日本との関係構築の処方箋(しょほうせん)について東洋経済(9月7日号)が特集を組んだ。「『脱中国』で脚光 インドが熱い」を見出しに立て、サブタイトルには「GDP3位が目前! 沸き立つ巨像に刮目(かつもく)せよ」を掲げる。

同誌はまずインドの潜在能力について、昨年の総人口が14億2800万人と中国を抜いて世界1位となったこともさることながら、年齢の中央値が低いことを挙げる。「中央値は27・9歳(22年時点)。四半世紀後の2050年になっても38・1歳と働き盛りの世代がボリュームゾーンを占める。中国の中央値38・5歳(同)が50年で50・7歳になっていることと比較すると経済成長のポテンシャルがうかがえる」とし、また「1人当たりの平均所得水準は現在2500㌦前後。日本の1970年代初頭と同程度だが、年間約10%ずつ拡大しているとされ、個人消費支出はうなぎ登りだ」と期待を寄せる。

これまでインドには日本企業も進出していたが、近年の米中対立の激化を受けて企業の「脱中国化」「すでにインドに進出している企業の再投資」が加速している。もっとも、そうした経済的側面以上に中国の覇権戦略に頭を悩ませる日本にとって今後、インドは重要な存在になってくるのは間違いない。

多連携が基本方針に

ただ、インドが自由で開かれた民主主義国か、という点について東洋経済同号は疑問を投げ掛ける。防衛大学校教授の伊藤融氏を登場させて、次のように語っている。「現在のモディ政権でとくに問題になっているのはイスラム教徒など宗教的マイノリティーへの迫害や暴力だ。野党指導者を容赦なく拘束したり、政府に都合の悪い情報を止めるためにインターネットも規制したりする」とし、日本や米国のような民主主義が出来上がっているわけではないと指摘。

さらに「どこの国とも連携する。日米豪とも戦略的関係を深めるし、中国主導の上海協力機構にもコミットする。この7月、ロシアを訪問してプーチン大統領とハグしたかを思えば、8月にはウクライナを訪問してゼレンスキー大統領ともハグをした。矛盾するようにも見えるこの多連携こそがモディ政権の外交方針だ」とインドの姿勢を説明し、結論として「インドが『われわれの側』についていたと考えること自体が間違っている」と強調する。

確かにインドの歴史を振り返れば、そのような多連携外交を繰り広げざるを得ないことが分かる。数百年にわたって英国の支配を受けてきたインドにとって欧米に対する不信感はなかなか拭えるものでもない。また、中国との軋轢(あつれき)も長期にわたっており、隣国パキスタンとの間には宗教的領土的な紛争課題を抱えている。西欧型の民主主義で事が解決するような状況にはなっていないのも事実である。

味方につける戦略を

従って、日本としては、そのようなインドの状況を把握しながら、われわれが現在直面している問題、すなわち世界の覇権国家を目指す共産中国に対処するためには、何よりもインドを「われわれの側」に巻き込む戦略をつくっていかなければならないのは論をまたない。そういう観点から同誌が指摘するように現在、「インドが熱い」のは時宜にかなっていると言えよう。

(湯朝 肇)

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