安倍氏の名誉剥奪を容認
岸田文雄総理が就任から3年持たずに退陣する。保守論壇を見ると、岸田氏への厳しい評価が目立つ。
保守派の論客として知られるジャーナリストの櫻井よしこ氏は、福井県立大学名誉教授の島田洋一氏との対談「次の総理とトランプ」(「正論」10月号)で、安保三文書の策定や原発の再稼働などでは「評価したい」とする一方、最も大事な憲法改正や皇位継承の安定化のための法整備は後回しにしたと失望をあらわにした。
島田氏は前回の総選挙で、岸田氏が「河野太郎氏よりはマシということで選ばれたわけで」、期待していなかったという。憲法改正については「宏池会(岸田派)としては憲法九条改正を考える必要はないと思う」と言っていたのだから、その「気概は終始窺えませんでした」と手厳しい。つまり、両氏とも、岸田氏の改憲アピールは言葉だけだったというのである。
一方、櫻井、島田両氏とは違った観点から、「未必の故意」があったかに思えてならないと、岸田氏の“罪”を疑う論客がいる。安倍晋三元総理の外交演説を起草したことで知られる谷口智彦氏。未必の故意とは、犯罪事実の発生を積極的に意図したわけではないが、その可能性を認識しながら発生してもかまわないと容認すること。
「正論」の巻頭コラム「観望台」を執筆する谷口氏は10月号で「岸田総理は何をしたかった?」の見出しを掲げて次のように述べた。
「岸田氏は、安倍元総理が非業の死を遂げたあと、故人を顕彰するどころか、マスメディアが安倍氏の名誉剥奪に総掛かりになるのを黙認し、容認した。
これを政治的鈍感のなせるわざと見る向きがある。私には、わずかにせよ、未必の故意が岸田氏にはあったかに思えてならない」と、安倍氏の国葬における「貢献」のなさを嘆いた。
そして、岸田氏が米議会の演台に立つのを見た時、「この人に何かしたいことがあるのだとすると、それは安倍氏の残像を中和し、できれば消却することではないか」との問いが浮かんだという。
安倍氏に対する海外の評価は歴代総理屈指の高さを示していた。安倍氏暗殺事件の後、それを否定したい左派マスメディアは、安倍氏がわずかに“接点”を持った宗教団体批判を展開した。そのことで、安倍氏の業績と名誉を貶(おとし)めようとしたのである。
本来、自民党総裁である岸田氏は、もはや反論できない安倍氏の名誉を守る先頭に立つべきだったはず。それはせず、保身から教団に「反社会的集団」とレッテルを貼り、逆に安倍氏の名誉を傷つける結果を招いたのである。この経過を見れば未必の故意は的外れではない。
最後に、谷口氏は実質、次の総理を選ぶ自民党総裁選に向けて次のように述べている。
「身体髪膚・五臓六腑に強い内発的動機をもち、日本の伝統を踏まえて確かな方向を示せる人を、二代続いた挫折を見た国民は、強く欲しているであろう」