討論会で論戦交わす
読売の顔といえば、ナベツネさんが思い当たる。御年は数えで99歳、白寿の代表取締役主筆の渡辺恒雄氏。いささか強面(こわもて)ではある。昨今はもう一人の顔が浮かぶ。橋本五郎氏(特別編集委員)である。こちらはテレビ出演も多く柔和な印象を与える。
読売の新聞としての「面」(つら)は、産経ほど尖(とが)っておらず、どちらかといえば橋本面(つら)と呼んでいい。日本最大部数を誇るだけに左ウイングへの配慮もあるのだろう。それで日頃の社説はおとなしい印象を受けるが、こと総裁選では趣を異にする。
橋本氏は日本記者クラブ主催の自民党総裁選候補者討論会での代表質問で、小泉進次郎元環境相の早期解散論に異議を唱えた。「新しい総理大臣がどんな国政運営をしようというのか、分からない中で、ただ選べと言うのは無茶な話ではないか」。与野党の国会論戦を行ってから解散すべしと迫り、小泉氏とちょっとした論戦を交わした。
橋本氏の質問同様、紙面でも総裁選に切り込んでいる。8月29日付社説は「『裏金』作りをしていた議員を公認するかどうかなど、自民党はいつまで内向けの議論を続けるつもりなのか」と批判。矛先を「(公認問題を)徹底的に議論する」と唱える石破茂元幹事長と、「裏金の返金を求める」の河野太郎デジタル相に向けた。「総裁を目指す議員が政治とカネの問題にこだわるあまり、難局にある日本をどう導いていくのか、といった大局的な議論が不足しているのは嘆かわしい」
夫婦別姓案にも疑問
総裁選が告示されると9月13日付社説は「日本の針路を大局的に論じよ」の見出しを掲げ、「思いつきのような構想が散見される」と候補者の「目玉政策」を俎上(そじょう)に載せた。茂木敏充幹事長の「増税ゼロ案」には「それが可能ならば、なぜ現政権で実行しないのか」。小泉氏の「労働者の解雇規制緩和案」には「(企業側の解雇を安易に認めれば)社会不安が高まりかねない。職業生活が不安定化し、結婚や出産をためらう人が増えて少子化が進むことにならないのか」と反論する。
小泉氏と河野氏、石破氏が前向きな「選択的夫婦別姓案」には「親子の姓が分かれれば、家族の一体感が損なわれ、子供の成長過程に支障を来す恐れも否定できない。親の視点だけで判断していい問題なのだろうか」と疑問を呈する。林芳正官房長官の「育児休業給付金拡充」には「給付を唱えるのなら財源の議論を避けてはなるまい」と釘(くぎ)を刺し、上川陽子外相の「所得再分配による中間層拡大案」、加藤勝信元官房長官の「国民の所得倍増案」には、「問われているのは、そうした目標を実現するための具体策だ」と迫る。
総裁選討論会を受けた読売15日付社説は「気概だけでは首相は務まらず」と候補者の気概倒れを突く。まずは石破氏の「アジア版NATO(北大西洋条約機構)創設案」。これには「日本は、国の存立が脅かされる事態などに限って集団的自衛権の行使を認めている。現状、NATOのような安全保障体制に参加するのは難しい」と観念論と退けた。
保守の論調を貫いて
小泉氏の日中関係についての「トップ外交で切り開いていく」の言には「国際情勢や戦略を緻密に分析することなく、トップ会談で何事も解決できると考えるのは、無理がある」と一蹴。選択的夫婦別姓について小泉氏の「30年続いた議論に決着をつける」との主張には、「議論が続いているのは、家族のあり方を大きく変える可能性があり、社会を分断しかねないなど、簡単な問題ではないからだ。一刀両断で結論を出せば、禍根を残しかねない」と切り返している。なかなか言うではないか。
産経は「日本を守る政策競い合え 『夫婦別姓』には賛成できない」(13日付主張)、本紙は「国家目標掲げ戦略を競え」(同)と説き、読売と歩調を並べる。これが保守論調というものだ。橋本さん、ここは強面を貫いてほしい。
(増 記代司)