「政局の分かれ目」に
週刊新潮が8月29日号で報じていたのだが、自民党総裁選に立候補している石破茂元幹事長の「高級中華料理屋会食」エピソードを週刊文春(9月19日号)が1カ月経(た)ってから取り上げている。ライバル誌既報の内容をなぞるのは週刊誌としては忸怩(じくじ)たるものがあるだろうが、それだけこの話は総裁選に影響があったということだ。
会食したのは石破氏と菅義偉前首相、武田良太元総務相。石破氏が菅氏に会いたいと申し入れて、新潮では菅氏が予約し会計までしたとあったが、「段取りしたのは武田氏」だと文春の記事は少し違う。また、新潮は店名までは明らかにしていなかったが、文春は「赤坂のANAインターコンチネンタル東京の高級中華料理店『花梨』」だったとし、さらに石破氏のコメントを載せていた。
曰(いわ)く「言ってもいないことを書かれてしまってですね…」。この会合について、朝日新聞が「石破氏、総裁選立候補へ」と報じたことについてだ。つまり石破氏は会合で総裁選に出るとは菅・武田両氏には言っていなかったということだ。文春はこのことこそが「政局の分かれ目だった」と伝えた。「菅氏側近」の話として。
高級中華、前総理、政界実力者、石破氏が会いたいと申し入れ…、とくれば、誰もが「総裁選に出る決意を伝え、支援を頼む」という話だっただろうと想像する。岸田文雄首相が出馬断念を発表したのは8月14日。会合はそれよりもずっと前の7月1日だ。この段階で石破氏が出馬意思を明かしたとすればスクープになる。ところが、石破氏はそうは「言ってない」という。朝日新聞は“小説”を書いたのだろうか。
それは置くとして、「あそこで石破氏が菅氏をしっかりグリップしていれば、進次郎氏はもちろん、河野(太郎)氏も出馬できず、候補者も乱立することはなかったはずです」と菅氏側近は文春に語っており、さらに「(菅氏は)ある時期までは確実に“石破支持”でした」と伝えた。
なぜ頼まなかったのだろうか。同誌は「首相側近・遠藤利明元五輪相」の話として、「岸田さんは昨年の内閣改造・党役員人事で『(幹事長などの要職に)石破さんを』という思いがあった。(略)態度を明確にしてこなかったのは、そのせいもあったんです」とのことだ。
総裁選が告示されて数日過ぎた段階だが、既に「石破茂、小泉進次郎、高市早苗」3氏の順位争いに絞られつつある。石破氏が菅氏の支持を固めていたら、展開は違っていたかもしれない。
決選投票に関心移る
注目度が一番高いのは小泉進次郎元環境相だ。週刊現代(9月14・21日号)は早くも「進次郎政権の『閣僚名簿』」を出した。ここで分かるのは、1回目投票で誰も過半数に至らず、1位2位の決選投票になった場合、他の候補者たちは「誰に付くか」にもう関心を移していることだ。勝ち馬に乗れるか否かはポストや処遇など“その次”に影響してくるから、身の振り方は将来図を大きく変えてしまう。
茂木敏充幹事長が「早くも菅さんと取引した」として、「旧茂木派幹部」は茂木氏が菅氏に対して「『決選投票では旧茂木派の手下をまとめて進次郎に入れる』と確約、希望していた財務大臣のイスを取りに行きました」と同誌に話している。週刊誌の“書き得”で、これも小説の類いかもしれない。
同誌は他に「新しい自民党のニューリーダーズ」と題して、まず小林鷹之前経済安保担当相と斎藤健経済産業相のインタビュー記事を載せた。両名ともに国家観など読ませるものだった。
小泉氏の資質問題視
週刊新潮(9月19日号)は小泉氏の“颯爽(さっそう)とした”会見について分析し、「PR会社が全面バックアップ」と書いている。「定型的な場所、演説とか」は「歯切れのいい弁舌」なのだが、「複雑な問題を総合的に判断し、的確に決断をしていく能力」には多くの専門家が疑問符を付ける。PR会社が周到に用意したシナリオをこなす点について政治アナリストの伊藤惇夫氏はかつて「天才子役」と評したことがあった。小泉氏の政治家としての資質を問題視する声が多いという点は抑えておく必要がある。(岩崎 哲)