トップオピニオンメディアウォッチ米大統領選と韓国外交の課題 「戦略的曖昧性」へ回帰するのか

米大統領選と韓国外交の課題 「戦略的曖昧性」へ回帰するのか

実利追求型への旋回勧める専門家

米国ではカマラ・ハリス副大統領とドナルド・トランプ前大統領、2人の大統領候補によるテレビ討論が行われ、大統領選もいよいよ佳境に入った。

日本の特派員たちは主に米リベラルメディアをフォローしているため、民主党のハリス候補に軍配を上げた報道をそのまま「転電」してきている。ところが、米議会を中心とする政治専門ケーブルテレビのCSPANや、保守系のFOXなどは、おもしろいことに特派員諸氏が伝える内容とは正反対の結果を出しているが、どうやら、これらの情報は一顧だにされなかったようだ。

米大統領選は日本の外交、安全保障、経済政策等に大きな影響を及ぼす。次期大統領に誰がなるかを正確に分析し、対処しておくことが国の進路を考える上で避けることができない作業だ。

その際、駐在公館をはじめとする政府機関の他に、民間企業やシンクタンク等も情勢分析をしているだろうが、民間人が触れるのは圧倒的に一般メディアが伝える情報だ。それが一方の情報を切り落とした偏ったものだとしたらどうだろうか。

韓国は日本以上に米国の影響を受けている。特に安保と貿易では米国が「生殺与奪の権」を握っていると言っても過言ではない。なので米大統領選を眺める視角も厳しいものになる。

中央日報社が出す総合月刊誌月刊中央(9月号)が「米大統領選と韓国外交課題」について識者に聞いている。興味深いのは識者たちが「米国の外側に注目」していることだ。具体的に「ロシアとイラン、ベネズエラ」を挙げた。ロシアとイランは分るが、ベネズエラを挙げる理由は何か。

同誌は「生活苦に勝つことができず移民を選んだベネズエラ(人口2600万人)国民が777万人に達する」とし、「米国がベネズエラを不法移民問題の雷管」として警戒していると紹介する。そんな中、バイデン政府は昨年「ベネズエラ移民のうち亡命を申請した47万2000人に臨時保護身分資格を付与した」のだという。

この不法移民問題は米政治メディアのポリティコが「ハリスが当選するために解決しなければならない五つの問題」に挙げたほど、米国では重要課題となっている。ハリス氏は副大統領として不法移民問題を担当していたが、「4年間、明確な成果を出すことができなかった」。つまり「失敗した」わけだ。

韓国に話を戻す。南北問題に関して「もしトラ」が言われた頃、「第3回トランプ・金正恩(朝鮮労働党総書記)ハイディールがあるかもしれない」という見方が広がった。これにウクライナ戦争で「(ロシアと関係強化した)北朝鮮の値打ちが上がり」(崔鍾建延世大教授)、「トランプはウクライナ戦争に終止符を打った後、北朝鮮との対話に出るだろう」との見通しを示したのだ。

さらに「日本・北朝鮮間の対話も直接間接的に模索される状況ならば、結局、韓国は韓半島問題において周辺国らと全ての立場は最悪の状況に置かれる可能性がある」とし、「米朝対話を模索する過程で韓国政府がパスされる可能性は大きい」(同)と悲観的な考えを示した。

韓国の対露関係、対イラン関係でも、トランプ、ハリスいずれが大統領になっても改善する見通しは立たない。こうした状況で尹錫悦政権の外交はどうあるべきかだが、専門家たちが口を揃(そろ)えて言うのが「外交路線は実利追求型へ旋回しなければならない」ということだ。

ユ・ダルスン韓国外大教授は「韓米日ブロックを強調するのではなく、戦略的曖昧性がかつてなく必要な時だ」と助言する。李明博政権で北朝鮮核交渉担当本部長や駐ロシア大使を歴任した魏聖洛(ウィソンナク)議員も「対中、対露でオーダーメード型外交戦略を打ち出さなければならない」と主張した。

ようやく日米韓“同盟”関係が定着しているところへ、また「戦略的曖昧性」に戻ることを勧めている。貿易で切っても切れない中国との関係で、常に米中のはざまに立たされてきた韓国としては、立場を明確にすることのリスクも十分に知っている。

尹政権がその方向に行くとは限らないが、もしまた「曖昧」にポジションを取れば、日韓関係にも大きな影響と変化をもたらすだろう。

(岩崎 哲)

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