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京都国際校の校歌を聞いて

「一衣帯水」の国であると確認

今年、100回を数える全国高等学校野球選手権大会の優勝校は京都代表の京都国際中学高等学校だった。同校の校歌は韓国語で歌われ、特に冒頭「東海」(日本海の韓国での呼称)の歌詞があり、それが甲子園に響き渡ったことで、少なくない議論となった。

しかし、終わってみれば、同校が文部科学省に認められた「一条校」であり、野球選手もほとんどが日本人生徒ということもあって、その後、特別に議論が続くこともなく収束していった。

一方、韓国では記念すべき100回大会で全国3700校の頂点に、全校生徒わずか136人の“韓国系学校”が優勝したとあって、尹錫悦大統領までがコメントを出し「奇跡だ」と喜んだ。韓国メディアがこぞって取り上げたのは言うまでもない。

月刊朝鮮(9月号)に「京都国際高“甲子園”優勝と韓国語校歌斉唱を聞いて」と題して、駐日大使を歴任した金奭圭(キムソッキュ)韓半島安保戦略研究院顧問が書いている。金氏は日本海を望む慶尚北道浦項市郊外の村で小中学生を過ごし、校歌には「東海」が含まれていたという。議論となる「東海」だが、これをもってして韓国側が主張している呼称問題にまで広げようとはせず、金氏は「感慨に浸る」とだけしている。

「東海の彼方大和の地、偉大な先祖の昔の夢の席」。この歌詞には「さまざまな複合的な意味がある」と金氏は言う。「3~4世紀、東海を渡っていった伽耶、百済、新羅勢力と日本列島勢力が連合して、京都を合わせた地域に大和国を建国した。その大和が現在の日本の根本になった。その先祖の後裔(こうえい)として、先祖の意を敬い、豊かに暮らしていくという高い理想が込められた歌詞だ」と説明する。

この金氏の解釈は日本側の理解とはだいぶ違う。大和朝廷が文化や技術を持った渡来人を技官や官吏として受け入れ登用したのであって、「連合して」「建国した」わけではない。金氏の説ならば渡来人は大和を建国した一方の当事者と言うことになる。

ただ、金氏が日韓が「それだけ近い一衣帯水の国である」ことを強調しようとし、かつて「連合して」国をつくった、その地で共に暮らそうという意で述べていることは分かる。

京都国際高は当初、在日韓国朝鮮人の子弟を対象とした学校としてスタートしたものの、生徒数の減少、経営の悪化などで、日本人生徒を受け入れざるを得なくなり、さらに野球に特化させて経営立て直しを図った。今では在日の生徒数の方が少なくなり、韓国色が薄れている。その中で唯一、出自の名残としてあるのが韓国語の校歌だ。

そうした実態を分かってみれば、韓国も同校の優勝を手放しで喜ぶわけにもいかなかったのだろう。韓国語校歌が「嫌韓派」の反発を招き、それを心配した面はあったが、それも一部のみで、大多数の日本人は「甲子園優勝校」として同校の栄誉を讃(たた)えた。それだけでなく、SNSなどでの悪質書き込みに対して西脇隆俊京都府知事は「あってはならない」と削除要請までしている。

同校の優勝は韓国人を喜ばせ、日本人の反応は韓国人を安心させた。さまざまな意味で時代を象徴した出来事だ。

(岩崎 哲)

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