
農水省に改善の余地
今夏、「令和のコメ騒動」とも言われ、スーパーなどの店頭でコメが品薄で容易に入手できない状態が続いた。最近は新米が出回り始め、事態は改善しつつあるが、高値が続いている。
こうした状況に、新聞では朝日と産経の2紙が社説で論評を掲載した。見出しは朝日6日付が「把握と発信の改善を」、産経7日付は「供給の安定確保に全力を」である。
市場取引には一定の変動は付き物とはいえ、「政府の状況把握や情報発信は適切だったのか。改めて点検し、改善をはかるべきだ」が朝日の主張である。
一方、産経は「残念なのは、問題が深刻化する前から品薄の懸念があったのに混乱拡大を許したことだ」として、農林水産省に「この現実を重く受け止めて、柔軟に対応できるよう知恵を絞るべきである」と強調。同時に、「日本の食料安全保障の根幹をなすのがコメである」として、社説見出しの通り、「いかなるときにもコメの安定供給を確保できるよう努めるべきである」とした。
確かに両紙の指摘は尤(もっと)もで、朝日が指摘する通り、「(不安増幅から買いだめに走る)悪循環を避けるには、機敏に実態を把握し、消費者目線で情報発信をすることが必要」「流通過程の目詰まりや、用途や種類によって需給が合いにくくなる部分がどこにあったのか、確認すべき」で、農水省の対応に改善の余地があるのは間違いないだろう。ただ、言うは易(やす)く行うは難しである。
備蓄米放出に問題も
例えば、産経は著しい不作で通年のコメ不足が見込まれる場合の政府備蓄米の放出について、「早めの放出で流通量を確保するなど、備蓄制度の柔軟な運用を検討しておくことも必要ではないか」と提案する。
これは混乱拡大の未然防止が念頭にあると思われるが、見方によっては「備蓄米を放出しなければならないほどコメは不足しているのか」と不安を煽(あお)る結果となり、逆に混乱拡大に拍車を掛けることにもなりかねない。
適切な対応には、今回の品薄がなぜ生じたかを的確に把握することが一番である。
両紙とも複数の要因があるとして指摘するのは、①昨夏の猛暑の影響でコメの品質が下がり、精米の出荷が目減りした②訪日客の増加によって外食需要が増加した③パンや麺類など他の食品と比べた値ごろ感でコメの消費が増えた④南海トラフ地震の臨時情報などで買いだめの動きが強まった、などである。
いずれも、特殊な要因(①は温暖化の影響によって、②も状況によって今後は定着するかもしれないが)とはいえ、特に④の買いだめは、新米に切り替わる端境期の8月に起きたため、これがダメを押す形で、今回の「コメの品薄」が生じた感が強い。
コメの需要量は②、③の要因から、昨年7月から今年6月までの1年間で702万トンと10年ぶりに前年比11万トン増と増加に転じたが、「趨勢(すうせい)的に需要が減少」(産経)してきた状況から一変した。
円安の影響も大きく
産経の「コメの作況が極度に悪化するような危機時でなくても、いくつかのリスクが重なれば、途端に流通が滞るというコメ供給の脆弱性(ぜいじゃくせい)だ。農水省はそこに十分対応できたとはいいがたい」との批判は言い過ぎで、朝日の「需要回復を読めず、販売量や価格も不安定化した」との指摘も無理からぬことに思える。
農水省は、インバウンド需要がこの1年間に5・1万トン(前年の約2・7倍)と推計するが、これは国内需要増の約半分を占める。インバウンドの増加は歴史的円安の影響が大きく、その影響は肥料や燃料費など生産資材の高騰から現在のコメ高値の大きな要因にもなっている。
コメの品薄が毎年のことなら明らかに農水省対応の問題だが、今回は先述の要因の影響がそれぞれ大きかったからで、論評が2紙と少なかったのも、そのせいか。
(床井明男)