中国の「近隣窮乏化政策」に警鐘鳴らす産経・ルトワック氏コラム

2023年11月15日(水)、カリフォルニア州ウッドサイドで中華人民共和国の習近平国家主席と会談するジョー・バイデン米大統領(UPI)
2023年11月15日(水)、カリフォルニア州ウッドサイドで中華人民共和国の習近平国家主席と会談するジョー・バイデン米大統領(UPI)

追加関税を課す欧米

米国の歴史学者で戦略家のエドワード・ルトワック氏による産経名物コラム「世界を解く」は8月30日、「中国『近隣窮乏化政策』阻止を』と題した一文を掲載した。

改革開放路線で「世界の工場」となった中国は今もなお、諸外国に輸出攻勢を掛け貿易黒字をたたき出している。自由貿易では廉価で優れた製品を製造できる国が輸出競争力を持つ。だが、国家が輸出企業に奨励金を出すことで安価性を担保し、輸出ドライブを掛けることは世界貿易機関(WTO)で禁じられている。輸出補助金は、必要以上に国内輸出産業を保護し輸入国の輸入産業に打撃を与える不公正な貿易につながるからだ。

米国は5月、太陽電池と半導体に対し現行の倍となる50%、鉄鋼・アルミニウムやバッテリー、医療製品などに対し25%の追加関税を課すことを決めた。

とりわけ注目されるのは電気自動車(EV)だ。EV市場への大規模進出を果たすことで、世界の自動車市場の覇権を握ろうとしている中国は、主要な国内EVメーカーに多大な政府補助金を出して海外での製造工場建設を進めると同時に輸出攻勢を掛けている。

これに欧米諸国は反発している。米国は今月にも、中国製EVに現在の4倍となる100%の追加関税を実施し、カナダも米国同様、100%の追加関税を課す方針を発表した。欧州連合(EU)は先だって、中国製EVに対する追加関税を現行の10%から最大36・3%にする方針を打ち出し今秋にも導入される見込みだ。

ナチスと重ねて断罪

こうした欧米の措置をルトワック氏は、専門とする軍事史と戦略思考の点から評価する。同氏はコラム「世界を解く」で、「ヒトラー率いるナチス体制は再軍備政策を進める上で鉄鋼や銅などの原材料を輸入するための外貨獲得に迫られ、政府の補助を受けて靴や道具、日常用品などをフランスなどの近隣諸国に安価で輸出した」とした上で「中国が、1930年代のナチス・ドイツ以来の忌まわしい経済・貿易政策を積極的に進めている」とし、「貿易相手国に負担を押しつけて自国の経済回復を図る、典型的な『近隣窮乏化政策』だ」と総括して中国の補助金漬け輸出攻勢を断罪した。

なお同コラムは、評論だけでなくニュースも含んでいる。以下がその部分だ。

「気になるのは、中国がハイテク分野で巧妙な対抗措置を取り始めていることだ」とし、「米国は、米画像処理半導体(GPU)大手エヌビディアが開発した人工知能(AI)向けチップの中国向け輸出規制を強化した。このため、同社のチップを直接輸入できなくなった中国企業は、オーストラリアにあるエヌビディア社製チップ搭載の高性能サーバーを運用するデータセンターに秘密裏にアクセスしてAI開発をするようになったという」と続ける。

抜け穴探しする中国

グーグルやマイクロソフトなどの米巨大IT企業も、クラウドで高速の計算能力利用が可能だ。しかし、これらの企業は弁護士や規制順守のエキスパート、公共政策の専門家から成るチームを編成した上で、利用者の身分証明書情報によって所属する事業所を確認するなど、身元確認規定を厳格に適用し中国企業のアクセスを拒んでいる。

一方、同コラムは「豪州のデータセンターは匿名での決済が可能なため、中国からのアクセスが急増しているとの指摘もある」と伝聞形式ながら核心的指摘をしている。

国家戦略が明確な中国は、世界的なネットワークを活用し“抜け穴探し”に余念がない。

巨大な堤防も「蟻の一穴」から崩れる。その穴をふさぐには、自由と民主主義、法の統治といった価値観を共有する国々が中国への危機感を共有する必要がある。

(池永達夫)

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