自社の世論調査とも過去の記事とも食い違う朝日編集委員の連載

改憲論議すら許さず

朝日の編集委員は自社の世論調査も読まないらしい。政治の歴史も学ばないらしい。いやはや、呆(あき)れたお人たちである。「自民党総裁選 編集委員が問う」と題する朝日の連載記事を読んで、こんな感想を抱いた。(8月27、28、30日付の上中下)

その下で藤田直央氏は「熟議なき改憲 国民置き去り」との見出しで憲法改正についてこう書く。「自民党は1955年の結党時、『押しつけ憲法』論で改憲を唱えた。基本文書では、敗戦後の米国の占領下でできた憲法は『不当に国家観念と愛国心を抑圧し、国権を過度に分裂弱化させた』とした。だが、今に至るまで改憲を発議しなかったのは、他ならぬ自民党だ」

確かに自民党は不甲斐(ふがい)なかった。が、発議どころか、論議すら許さなかったのが他ならぬ朝日ではなかったのか。改憲発言で罷免要求を叩(たた)きつけられ辞任した大臣がいたり(68年、倉石忠雄農相。93年、中西啓介防衛庁長官)、それを逆手に取られて「改憲せず」の約束を迫られた内閣もあった(75年、稲葉修法相=三木武夫内閣。80年、奥野誠亮法相=鈴木善幸内閣)。その旗振り役を演じたのが朝日である。

藤田氏はこうも書く。「憲法に基づく抑制的な防衛と日米同盟、経済重視で日本は発展。平和主義など憲法の理念は社会に定着しており、世論調査でも政治課題の中で改憲の優先順位は低い」

そうだろうか。今年5月3日付に載った朝日世論調査では、国会で憲法改正の具体的な条文づくりを進めることに賛成59%(反対30%)、自民党の9条に自衛隊を明記する改憲案に賛成51%(反対40%)。「『いまの憲法9条では、日本を防衛するうえで支障がある』という意見に共感するか」の問いに共感59%(共感しない37%)だった。9条では平和を守れない。それが朝日自身の世論調査で示された国民世論である。これを無視する藤田氏こそ国民を置き去りにしている。

いち早く踏み込んだ

また、2004年の衆院憲法調査会で宮沢喜一元首相が「憲法は激変する国際環境と変転する国内情勢の中で務めを全うし、我が国は発展を遂げることができた」と指摘しているとも書くが、宮沢語録を挙げるなら、これも朝日自身が鳴り物入りで報じている「宮沢喜一日録」をしっかり読んでもらいたい。サンフランシスコ講和会議から半世紀後の2001年に開催された現地での講演についての次なる記事である。

「(講演で)宮沢は、他国を守る集団的自衛権の行使について、『日本の安全保障上のリスクに明確かつ直接にかかわる活動』をしている米軍を守るためであれば、憲法を変えずに『自衛隊を運用できる、運用するべきだ』と述べたのだった。宮沢が語った集団的自衛権の行使は、憲法上可能な自衛を超えるとしていた政府の解釈に挑むもので、13年後に安倍晋三内閣が行った憲法解釈の変更とほぼ同じ話だ」(朝日デジタル版今年2月25日付・第12回)

宮沢氏は安倍氏よりもいち早く集団的自衛権行使に踏み込んでいたとし、さらに当時まだ楽観論が多かった中国の針路について「軍事強国志向であり、わが国及び周辺の脅威になる」との懸念を示し、「憲法は変えないで守っていこうと思っているが、最後の判断の要素は中国の出方だ」と、日米の連携強化へ改憲の可能性にまで触れていたという。

語録から何も学ばず

連載の中、「惰性で防衛力強化 通用せず」の佐藤武嗣氏はその中国の脅威について一言も書かないで「経済・財政力をどう回復するのか語らずして、日本の安全保障を語ったことにはならない」と話を逸(そ)らしている。それを言うなら「中国の脅威を語らずして、日本の安全保障を語ったことにはならない」である。悲しいかな、朝日は宮沢語録から何一つ学んでいない。自民党総裁選に出馬予定の諸兄諸姉の皆さん、こんな言説に惑わされてはなるまいぞ。

(増 記代司)

spot_img
Google Translate »