メディアの耳目集中
つくづく自民党は生存本能が強い政党だと思う。党の代表を選ぶだけで、これだけメディアの耳目を引き付け、国民の関心を高めてしまう。おそらく誰もが指摘する総裁選後の解散総選挙では、「このままでは過半数割れ」だった状況から、現状程度の維持はしてしまうのではないだろうか。
「国民そっちのけ」「コップの中の騒動」「派閥の暗闘」等々、一応メディアとしての批判姿勢は維持しつつも、総裁選の話題を扱わざるを得ないのは事実。ほぼ同時期に行われる野党第1党立憲民主党代表選もあるにはあるが、自民党関連報道の比ではない。野党が悔しがる所以(ゆえん)だ。
さて、注目は何と言っても小泉進次郎元環境相(43)。まだ原稿の時点では正式に出馬表明していない。小林鷹之前経済安全保障担当相(49)が「知名度のなさ」を補うためか、先陣を切って記者会見したが、人気も知名度もある小泉氏は散々気を揉(も)ませて、最後の方で登場し、話題を一気に掻(か)っさらっていく気だろう。
週刊新潮(8月29日号)が「自民党総裁選の大暗闘」と題して特集を組んだ。先の小泉、小林両氏の他に石破茂元党幹事長(67)、河野太郎デジタル相(61)、高市早苗経済安全保障担当相(63)、茂木敏充幹事長(68)を取り上げている。
他に出馬の意向を示している上川陽子外相(71)、加藤勝信元官房長官(68)、野田聖子元総務相(63)、林芳正官房長官(63)、齋藤健経済産業相(65)、青山繁晴参院議員(72)は取り上げなくてもいいのだろうか。既にこの時点で差がついてしまっている。
陰の苦労が分からず
石破茂氏が「国民からの圧倒的な人気を誇りながら、なぜ宰相のイスに座ることが叶っていないのか」について、同誌はエピソードを紹介した。7月に都内のホテルにある中華料理店で「石破氏は菅義偉前首相(75)、武田良太元総務相(56)の二人と卓を囲んでいた」という。舞台は高級中華料理店だ。有力政治家が3人。いわゆる「料亭政治」の現場である。総裁選出馬に際し、応援を要請したのか、と誰もが思うだろう。
ところが違った。「石破氏の口から、総裁選についての具体的な話は出なかったようです」と「ジャーナリストの青山和弘氏」は同誌に語る。何のために会ったのか。「母校の慶応大時代は頑張って勉強したといった昔話が始まってしまい、菅・武田の両氏はズッこけてしまったそうです」(同)。
しかも「石破さんから打診されたにもかかわらず、店選びから支払いまでやったのは菅さんだったとか」とは「党関係者」の言だ。菅さんは「下戸」だ。自然と聞き役に回る。大学時代如何(いか)に勉強したかを酒も飲まずに聞かされたとは気の毒なことだ。
こういうところが党内でも他所(よそ)でも「仲間」ができないところなのだろう。これは筆者がある自民党衆院議員から聞いた話だが、「石破さんは人が陰でしている苦労が分からない」。だから「かつての派閥(水月会)でも人が離れていった」そうだ。
「憲法改正が出来る男」(江藤征士郎元衆院副議長)という評価もあるが、改正には多数が必要で、幅広い支持を集められない人にそれができるだろうか。
各候補の遍歴報道を
一つ疑問がある。石破氏が党内で人気のない理由を「安倍さんに嫌われたから」という人がいるが、その嫌われた理由を語る人が週刊誌でもテレビでもいないことだ。元自民党本部職員は「裏切ったことのある人を党は絶対に許さない」と言った。平成5(1993)年宮澤内閣不信任決議で石破氏は賛成を投じた。信念に従ったまでだろうが、宮澤内閣で農林水産政務次官を務めていてである。
その後、公認が得られず無所属で出て当選。細川内閣の政治改革法案にも自民党の方針に反して賛成票を投じた。新生党、新進党を経て、自民党に復党した、という経歴を持つ。
信念を貫いたのか、ふらふら渡り歩いたのか、捉え方は人それぞれだろうが、今回の総裁選、「裏金問題と旧統一教会との関係」だけを問い詰めても表面しか分からない。週刊誌はじめメディアは各候補の遍歴もしっかり報じるべきだ。
(岩崎 哲)