野党外交アドバイザーの危険な視点
北朝鮮とロシアの接近に韓国が神経を尖(とが)らせている。一方、韓国とロシアの関係が悪くなると朝鮮半島で衝突の可能性が高まるとの警戒感も高めている。
新東亜(8月号)で魏聖洛(ウィソンナク)氏が「朝露密着、荒波の韓半島」の原稿を寄せた。魏氏は李明博政権で外交通商部朝鮮半島平和交渉本部長(六者協議韓国首席代表)や駐ロシア大使を務め、2022年の大統領選挙では当時野党候補だった李在明京畿道知事の外交ブレーンとなり、4月の総選挙で野党共に民主党から出て国会議員になった人物だ。
魏氏は最近の朝鮮半島を巡る「力学構造の変曲点」を二つ挙げた。第一は米キャンプデービッドで行われた日米韓首脳会議(23年8月)、第二がプーチン露大統領の平壌訪問(24年6月)だ。これによって朝鮮半島とその周辺には「新しい冷戦のような冷気が満ちた」としている。
これを魏氏はロシアを軸に分析している。1990年に盧泰愚大統領(当時)が「北方外交」を展開し、韓国とロシアの関係は劇的に進展した。だがそれから34年が過ぎてみれば「退潮」著しい。逆に北朝鮮とロシアとの関係はいったん「退潮」はしたが、今は「浮上」している。
北朝鮮はこの間、国際社会から孤立しながらも北朝鮮なりの猛烈な“努力”をしてきた。韓国の北方外交で北朝鮮は「ロシアと中国を失った“没落”の危機を核開発で突破しようとした」のだ。そして目論見(もくろみ)通りに「反転を実現した」。だが、それが「結局、軍拡競争と核ドミノにつながる可能性」を高め、「韓国はもちろんロシア極東地域の安定と安全を脅かす」状況をつくった。
魏氏はこれに対処するために韓国政府はロシアとの関係改善をすべきだと主張する。それは尹錫悦政権の政策方向とは違う。野党政治家なのだから違って当然だが、周辺の強国の中でよく言えば平衡を保とうとしてきた李朝末期のどっちつかずの右往左往を連想させるものだ。
それでも魏氏はロシアとの関係改善の必要性を説く。ウクライナへの支援再考や米中対立、米露対立に巻き込まれない立ち位置を模索すべきだと言う。さらに「朝露接近を牽制(けんせい)するために中国を活用する案も検討に値する」とも挙げている。だが実際にそれがいかに難しく、過去、同じような行動が半島に安定をもたらしたわけではなかったことを省察すべきだろう。
魏氏は「ジレンマ的難題」だとは言いつつ「韓国、米国、日本との協力をしながら、北朝鮮、中国、ロシアとの関係を管理する」という高難度の課題を口にする。この「韓国型座標と方向性」は韓国が「世界10位圏の経済大国」になったという自信に裏付けされているようだが、経済力と外交力はイコールではないことは外交官の魏氏なら骨身に染みて分かっているだろう。
野党の外交アドバイザーの考えがこのようであれば、日米は韓国の次の政権が保守か左派どちらに傾くかを注視せざるを得ない。尹政権がキャンプデービッド精神を維持してくれることを願う。
(岩崎 哲)