五大紙が社説を掲載
日没後に上空に浮かび上がり街を照らしたパリ五輪の聖火が消えた。五大各紙は13日、オリンピック総括の社説を掲載。五大紙は五大陸を表す五輪の色が違うように自分の色を出した。特筆すべきは朝日と産経の違いだろう。朝日は性の多様性容認を絡め、産経はナショナリズムを前面に押し出した。
朝日は13日付社説「パリ五輪閉幕 変化と継承の間で」で、「選手の男女同規模の参加が実現したこの大会で、女性審判が数多く男子の試合も担当し、活躍の場を広げているのは印象的だった」と書き「一方で、ボクシングでは性別のルールに従って参加した選手が中傷を受けた。性の多様性に遅れてきたスポーツ界は全体として、いっそう前向きに取り組むべきだろう」と性の多様性を認めるよう尻を叩(たた)いた。
ボクシング女子66キロ級予選で、昨年の世界選手権で性別検査により失格となったアルジェリアのイマネ・ヘリフ選手が、国際オリンピック委員会(IOC)によって参加を認められたが、対戦したイタリアのアンジェラ・カリニ選手は危険だと訴え試合途中で棄権した。これ受けての社説だ。
金メダルを手にしたヘリフ選手はトランス女性ではないものの、性別を巡る問題は複雑で、簡単に明確な答えを出せる状況にはない。今大会はジェンダー平等や多様性を掲げた。その看板を背に、朝日がスポーツ界を「性の多様性に遅れてきた」と“後進”扱いした上で、ジェンダー平等や多様性容認に向け「いっそう前向きに取り組む」よう促すのは、議論をすっ飛ばしたスローガンでしかない。
応援に遠慮いらない
片や産経は13日付主張「パリ五輪閉幕 大歓声の祝祭復活を喜ぶ」で、エスタンゲ大会組織委員会会長の開会式のあいさつを取り上げ「仏選手団を名指しし『メダルを取れば国民全体が誇りに思う。表彰台で泣いたら国民全員が喜びで涙する。勝利ごとに国民はまとまる』と呼びかけたことだ。立場はどうあれ、自国の応援に遠慮はいらないのだと印象付けた」と書いた。
その上で「五輪憲章には『五輪は選手間の競争であり、国家間の競争ではない』の一文がある。これをもって国の存在を忌避し、表彰式から国旗掲揚を排すべきだとの意見もある。だが憲章は、選手の国に対する思いを否定するものではない。国旗の掲揚は勝者をたたえるとともに、他国への敬意の表れでもある」とし「侵略国やドーピングなどの不正に関わる国家は、その栄誉にあずかれない。これが明確に示された大会でもあった」と総括した。
少々長いが、産経の言いたいことが次の一文に凝縮されているので紹介する。
「勝者の涙についても触れておきたい。ゴルフ男子は現在の世界ランク1位、スコッティ・シェフラー(米国)が制した。終始笑顔だったシェフラーは表彰台の中央で星条旗を仰ぎ、国歌を聴いて涙をあふれさせた。その涙を隣でまぶしそうに見つめた銅メダルの松山英樹は、4年後のロサンゼルス五輪にも『絶対に出たい。4年間、また頑張る』と話した。この光景に五輪の魅力が凝縮された」とした上で「国旗と国歌に彩られる表彰式は、昔も今も将来も、五輪のハイライトでありたい」とさらりと流した。
選手の言葉どう届く
今回、五輪が提唱した五輪停戦は実現せずロシアの軍事侵攻が続いている中で参加したウクライナが獲得したメダルは金3、銀5、銅4だった。その金メダルに輝いたウクライナの女子走り高跳びのヤロスラワ・マフチフ選手は、国旗と同じ青と黄色のアイメークを施した顔で「国を守る人々のためのメダルだ」と語った。射撃の男子ライフル3姿勢で銀メダルを獲得したセルヒー・クリシュ選手は「勝利を家族と国家に捧げる」と述べ、戦禍の祖国に希望の光をともすことを希望した。
「選手は五輪で国家を背負うべきではない」と利いたふうな口を利く論者の耳に、ウクライナのメダリストの胸の内から絞り出した言葉がどう届くのだろうか。
(池永達夫)