米欧の6大使が欠席
8月ジャーナリズムの最中である。8月6日の「広島原爆の日」、9日の「長崎原爆の日」、15日の「終戦の日」を軸に「平和を守る。二度と戦争はしない」の一大合唱を繰り広げる。それが8月ジャーナリズムである。
今年の「目玉」は長崎だった。長崎市はロシアのウクライナ侵略を受けて2022年からロシアとベラルーシを式典に招待していないが、今年はパレスチナ自治区で戦闘を続けるイスラエルも不招待とした。これを受け先進7カ国(G7)の米欧6カ国の駐日大使は「イスラエルをロシアとベラルーシと同等に扱うことになり、誤解を招きかねない」として式典に参列しないと表明。長崎市は政治的理由ではなく、「不測の事態を避けるため」と説明したが、6大使は欠席した。
この長崎市の対応を外交評論家の宮家邦彦氏は、神聖かつ厳粛な場である慰霊式に「今回泥を塗ったのは他ならない長崎市である」とし、「原爆慰霊式を政治化するな」と批判している(産経8日付「宮家邦彦のWorld Watch」)。
イスラエル大使が参列した広島市の式典ではデモはあったが、「不測の事態」は起きていない。長崎市が警察当局から警備上の要請を受けたり協議したりしたという話も聞かない。「政治的判断ではない」と言っても誰も信じまい。
宮家氏は、「欧米であれば、この種の措置は『反ユダヤ主義』と批判される恐れがある」と指摘する。「政治的理由でイスラエルを批判することは構わないが、非政治的な場でユダヤ系だけを政治的に差別することは『反ユダヤ主義』と誤解される行為」で、それに言及しなかった日本の大手メディアの「鈍感さ」に驚かされたと述べている。
反米反核の絶好の場
「鈍感」どころか、朝日は「納得できぬ米英の欠席」、毎日は「欠席判断は極めて遺憾だ」(いずれも10日付社説)と長崎市の式典「政治化」をけしかけている。旧ソ連、中国、北朝鮮にシンパシー(共感)を抱いてきた左派勢力は「原爆の日」を反米反核の絶好の場と捉えて政治利用してきたが今回、そのだしにイスラエルが使われた格好だ。
朝日8日付には、イスラエル不招待を強く求めた「長崎原爆被災者協議会」の田中重光会長が登場し「戦争をしている国ですから、核兵器をちらつかせている国ですから、呼ばないでほしい、というのが私たちの考え」と述べている。田中氏は日本共産党系の「日本原水爆被害者団体協議会」(日本被団協)の代表委員も務めている。
一方、毎日9日付「被爆者『市の判断当然』」との見出し記事には、被爆者団体「長崎平和運動センター被爆者連絡協議会」の川野浩一議長が登場し、イスラエル不招待賛成論をぶっている。平和運動センターは旧社会党系だ。ちなみに広島市でデモを行った「8・6ヒロシマ大行動実行委員会」は中核派である。
重宝がる朝日・毎日
もともと被爆者団体は共産勢力に翻弄(ほんろう)されてきた。1955年に発足した原水爆禁止日本協議会(原水協)は60年安保を巡って反米色を強め、旧民社党など保守系が脱退。64年、東京五輪の最中に中国が初の核実験を強行したが、岩間正男・共産党参院議員(当時)はこう言い放った。
「世界の4分の1の人口を持つ社会主義国の中国が核保有国になったことは、世界平和のために大きな力となっている。元来、社会主義国の核保有は帝国主義国のそれとは根本的にその性格を異にし、常に戦争に対する平和の力として大きく作用している」(同年10月30日、参院予算委)
これを受けて65年には原水協から旧社会党系が脱退し原水爆禁止日本国民会議(原水禁)を設立。冷戦期にはそろってソ連が操る反米反核運動を展開した。こんな勢力を朝日や毎日は重宝がり、何かにつけて記事にする。それで8月ジャーナリズムは「反米反核反戦」の場と化す。イスラエル不招待もその流れの中で捉えておくべきだ。
(増 記代司)