最低賃金大幅引き上げに右も左も「是」とするも気になる中小の未来

都市のイメージ(Photo by Vlad Busuioc on Unsplash)
都市のイメージ(Photo by Vlad Busuioc on Unsplash)

中小の改革説く日経

26日付読売「大幅引き上げで成長型経済に」、日経「生産性高め最低賃金引き上げを進めよ」、27日付朝日「引き上げの歩み継続を」、28日付産経「継続に向けた環境整備を」、29日付東京「継続的な引き上げこそ」――。

厚生労働省の中央最低賃金審議会が24日に、2024年度の最低賃金引き上げ額の目安を、過去最大の50円とすることに決めたことを受けて、社説で論評を掲載した各紙の見出しである。

列挙した通り、保守系紙、左派系紙とも、最低賃金の大幅引き上げを是とし、引き続き引き上げの継続を求めるものとなった。

中でも、日経と朝日、東京の3紙は「日本の最低賃金はまだ海外に比べて大きく見劣りする」(日経)、「それでも国際的にみれば依然水準は低く、地域間の格差も大きい」(朝日)などとして、持続的な引き上げとそのための生産性向上などの環境整備を強く求めたのが印象的だった。

日経は「物価高で家計は圧迫され、実質賃金はマイナスが続く。非正規従業員は最低賃金に近い水準で働く人も多く、生活を支えるうえで大幅引き上げは必然といえる」として、企業に対しさらなる賃上げができるよう生産性を高めるべきだと強調。

政府が昨年夏に、30年代半ばまでに全国平均で1500円とする目標を打ち出していることもあり、日経は「国際水準に早く近づくために、可能な限り前倒しすべきだ」と訴えた。

最低賃金の大幅引き上げは、余裕資金の乏しい中小企業にとっては一段の負担増要因である。これに対し同紙は、「中小企業に経営改革を迫る」ものとし、「生産性を高めるために、今こそデジタル化や省力化、従業員の能力開発への投資に踏み出してほしい」とする。正論である。

朝日は大企業責任論

とはいえ、すべての中小企業が対応できるわけではないだろう。同紙は、人手不足が深刻化する中、賃金の高いところに人材は集まり、企業の新陳代謝は避けられないとして、政府に対し、「助成金のばらまきで不振企業を延命させるのではなく、構造改革を進めて最低賃金の持続的な引き上げを目指すべきだ」と説く。同紙がよく主張する“適者生存”を目指す構造改革推進論である。

日経同様、というより日経以上とも思える「持続的な引き上げ」を主張するのが朝日だ。

朝日は昨年度を上回る幅で引き上げ幅の目安を示した今回の決定を「妥当な判断」としながらも、実質水準の押し上げや格差是正の面では「物足りなさが残る」と指摘。また主要国の最低賃金がフルタイム労働者の中央値の5~6割なのに対し、日本は5割にも満たないとして、「国際的な人の移動が進む現状を考えても、底上げは急務だ」と強調するのである。

同紙は、「中小の事業所には賃金の増加が経営を圧迫するとの声が根強くある」としつつ、それには販売価格への反映を進め、働き手に報いる必要があるとして、「そのためには、大企業と下請けの取引条件の改善が欠かせない」と強調、大企業が相応の責任を果たすよう、政府は監視体制を強化すべきだと説く。

確かに尤(もっと)もである。この点を第一に指摘するのは、日経では聞かれなかった、いかにも左派系らしい主張である。

成長型経済に不安も

朝日は政府の役割にも注文を付けた。生産性向上を後押しする補助金や税制の支援策も、「十分活用され、成果につながっているのか。丁寧に検証し、運用改善につなげてほしい」と。

この点もその通りである。ただ、他紙も含め、最低賃金の大幅引き上げによって実現する「成長型経済」(読売)が定着するまでどれくらい時間がかかるのか、またその間に大企業や政府の役割が十分に果たし切れるのか。急ピッチで大幅引き上げが続く中で、中小企業の未来が気になってしまう。

(床井明男)

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