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日本にとり地政学上重要なインド・東南アジア経済を分析したエコノミスト

2023年9月10日(日)、インドのニューデリーで開催されたG20サミット。中央がインドのモディ首相(UPI)
2023年9月10日(日)、インドのニューデリーで開催されたG20サミット。中央がインドのモディ首相(UPI)

製造業が弱いインド

中国の習近平政権が太平洋における覇権戦略を繰り広げる中、インドに加えて東南アジア諸国連合(ASEAN)の経済動向が注目されている。世界の工場であった中国が不動産バブルの崩壊で経済不振に陥り、なおかつ米中対立が激化する中、“脱中国化”が止まらない状況となっている。その受け皿になっているのがインドやASEAN諸国。それらの国々の経済的な潜在力は極めて高く、欧米諸国が市場参入にしのぎを削っている状況だ。

そうした中でエコノミスト(7月9日号)がインド・東南アジア諸国の経済動向を特集した。見出しは「沸騰!インド 東南アジア」。ただ、それだけを見ればインドおよび東南アジアの国々の経済は、沸きに沸いている印象を受けるが、特集の中身をじっくり見てみると課題も山積しているようだ。

確かにインド経済について言えば「経済成長率は年平均7~8%と世界一。厚い若年層に支えられた世界一の人口は安価な労働力と巨大国内消費市場を創出し、成長の大きなドライバーになっている」と指摘されている。インドは「2030年ごろにはGDP(国内総生産)で日本を抜き、世界3位にのし上がる」という予測もあながち過大評価とは言えない。

ただ、同誌は「現在のインドの経済成長はIT(情報通信)と金融を中心としてサービス部門がけん引しており、製造業のシェアや伸びが弱いのが特徴だ。…長期的に見てインドに必要なのは製造業、特に輸出型経済のシフト・拡大である」(池田理恵・インド工科大学助教授)とインド経済が盤石でないことを強調する。

中国への依存度が高い東南アジア

一方、東南アジアの核となるASEAN諸国についても「加盟国10カ国の多くは、輸出依存度が相対的に高いという特徴がある。2000年代以降、財(モノ)の輸出先のうち中国向けが最大となり中国経済との連動性が高まってきた。…しかし、(近年の)中国経済の低迷はASEAN経済の足かせになってきた」(西濱徹・第一生命経済研究所主席エコノミスト)として中国依存の経済ではASEAN経済は成り立たないことを指摘する。

また米中摩擦の激化で“脱中国”が加速し、欧米諸国が、政治が比較的安定しているASEAN諸国に生産拠点を移す動きもあるが、中国企業もまたそれに乗じてASEANシフトを強めることは十分考えられる。ただ、そうなればまた中国の「迂回(うかい)輸出」ということで今度はASEAN諸国が米中摩擦に巻き込まれる事態にもなりかねないのである。

西濱氏は、ASEANの人口構成について、インドネシアやフィリピンは「若年層の比率が高く、中長期的には人口増が見込まれる。しかし、シンガポールやタイ、ベトナムは生産年齢人口の増加が経済成長率を促すと期待される『人口ボーナス』の時期が過ぎ、…潜在成長率の低下を招くと予想されている」と悲観的で、「(これまで)中国企業の投資を受け入れた結果として製造業の基盤が失われ、若年層の雇用創出機会が低下すれば経済成長にも悪影響が出る」と中国資本依存の負の側面に警鐘を鳴らす。

包囲網を形成し監視を

ただ、そうはいってもASEAN全体の域内人口は6億5千万人。2022年の全体のGDPは3兆6579億㌦(日本の85%)だが、26年には日本に並ぶか上回るという予測もある。それだけに魅力的な市場であることには間違いない。ただ、インドや東南アジアの国々は日本にとって地政学的に極めて重要な位置にあるのは論をまたない。わが国にとって中東からの原油ルートはまさにインド、東南アジアを経由する生命線である。

また、世界覇権国家の野望を抱く中国が今後も東南アジアの国々を懐柔して進出を強めてくることは必至で、日本としては、北はモンゴルから南はインド、東南アジアそしてオーストラリアと経済的に連携を強め、中国包囲網を形成しながら注意深く監視していくことは安全保障上からも極めて重要であることを認識しておかねばならない。

(湯朝 肇)

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