消費の落ち込み懸念
2日付日経「円安の影響を注視し内需の成長を盤石に」、5日付読売「個人消費の弱さが気がかりだ」、本紙「円安修正で一段の景況改善を」、7日付朝日「消費の弱さ警戒怠るな」――。
日銀が1日に発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)について社説で論評した各紙の見出しである。(毎日、産経、東京はなし)
掲載4紙はいずれも、円安を要因とした物価高による消費の落ち込みを懸念するものとなったが、その対策について日経は、教科書的な正論を述べるにとどまり物足りなさが残った。
これまで円安の進行に対し、その弊害はほとんど説かず、もっぱら円安のメリットを説いて円安の利用やその工夫をしばしば主張してきた日経が、今回は円安のマイナスの影響について明確に指摘するという大きな変化があった。
冒頭では「企業の設備投資を軸に内需拡大への歩みが続く半面、円安が個人消費を下押しする懸念もくすぶる」と記し、大企業非製造業の景況感が4年ぶりに悪化したことに関しては、小売業で物価高により家計の買い上げ点数が減ったことを挙げて、「今後は急速に進んだ円安の影響で一段と値上がりが進む可能性がある。消費意欲が冷え込むリスクに目配りが欠かせない」といった具合である。
ようやく認識変化か
最近の160円を超える円安に企業の多くがデメリットを訴え、財界首脳からも懸念する発言が出るようになり、日経もようやく認識が変わったかと思える点はいいのだが、ただ、具体的な対策になると、「政府・日銀は円安が物価高に拍車をかけるといった経済への多面的な影響を見極め、着実な政策判断を積み重ねてほしい」とする。正論でその通りだが、具体的にどうすべきなのか分からないのである。
企業が24年度の為替レートを1ドル=144円台後半に想定した点でも、1日夕時点の161円前後よりも大幅な円高水準だとし、「今後、円安方向に修正が進む場合、輸出企業の採算向上が見込める半面、内需型企業はコスト高や消費停滞の心配が強まる」と指摘はするものの、それに対しては「当局は注意深く分析し、適切な判断につなげてほしい」と記すのみ。教科書的な正論で間違いはないが、その「適切な判断」とは具体的に何なのか不明なのである。
それでいて、「重要なのは目先の需要刺激だけではなく、中長期の視点だろう」として、賃金上昇の継続はもちろん、社会保障での負担と給付の抜本的な見直しを含め、「将来の所得環境に本当の意味で安心感を持てるような対応が必要になるはずだ」と説く。
中長期の視点もいいが、より重要なのは緊急性の高い物価高対策をどうするかという当面の問題への対処ではないのか。日経には今後の為替相場の動向に影響を与え得る月末の日銀金融政策決定会合についての言及もなく、経済紙として物足りなさを強く感じるものとなった。
日銀会合に3紙言及
この点、ほかの3紙は日銀会合に言及。本紙は円安が景況改善の重しになっている状況から、小幅な利上げなら円安是正へ「理にかなっている」と指摘し、為替介入も当局の断固とした姿勢を示す意味で一手段として評価した。
読売は、全体的には日経同様、「政府と日本銀行は、景気や物価高の動向をしっかりと点検して、政策に生かしていってもらいたい」と教科書的だったが、日銀会合については、「物価高の大きな要因は、1ドル=160円を超える水準の円安である」と指摘。「利上げすれば円安に一定の歯止めがかかることが期待されるが、中小企業などの資金繰りには負担になる」として、日銀には「適切な利上げ時期などを判断することが大切だ」とした。
朝日は日銀会合に言及はあったものの、「経済と物価高への影響に目を配りつつ、適切な政策判断を行っていく必要がある」と日経同様、教科書的で具体的な提言はなかった。(床井明男)