
選択の幅広げる別学
筆者は今年3月15日付の弊紙「記者の視点」で、埼玉県で起きている共学化論争を取り上げた。筆者の出身校は創立明治30(1897)年で、長い伝統を誇る男子高校(宮城県)だった。その母校は19年前、男女共学となった。埼玉県と同じく共学化論争が起き、在校生、OB・地域住民の強い反対があったにもかかわらず、行政側が県内一律共学化を強行し共学にされてしまった。母校を失ったも等しい高校改革だった。
筆者は別学論者だ。理由は思春期の3年間、異性の目を気にせずに勉学に励むことは学業はもちろんのこと、男性なら男性性を、女性なら女性性を育むのに有益であり、それが後の長い人生を豊かにすると思うからだ。
また、共学の公立高校がほとんどの現在、少しは別学を残すことは生徒の選択の幅を広げることになる。別学高校に行きたい生徒に、遠くの私立通学を余儀なくすることはやってはいけない。「ジェンダー平等」をかざして、別学に反対する識者が少なくないが、女性差別と別学を結び付けることは屁理屈にしか聞こえない。
NHK「首都圏情報ネタドリ!」が今月21日、この問題をテーマにした。筆者の母校が伝統を断たれたことの悔しさとともに、共学推進派の説得力のなさに呆(あき)れたので、この欄でも取り上げる。
番組は識者2人をスタジオに招いた。東京大学教授で、ジェンダー論専門の瀬地山角、昭和女子大学客員教授の平川理恵。瀬地山は共学推進派で、平川は決定プロセスの重要性を説く、いわば中立派。筆者のような別学論者をスタジオに招かないところに、NHKのスタンスが表れている。
在校生の86%が反対
埼玉県の名門・浦和高校(創立明治28年の男子校)生徒会が在校生に行ったアンケート調査によると、共学反対86%、賛成2・8%。卒業生・保護者にも反対が多い。
同高生徒の多くは男子校の長い伝統と、東大への進学県内トップの実績に魅力を感じて入学したのだから、共学反対が多いのは当然と言えるが、それにしても9割近くの反対にはビックリ。共学反対の理由は「異性がいないと自分を解放できる」など。卒業生は「別学に行きたいという生徒の選択肢を狭めることになる」などで、筆者の考えと重なる。
埼玉県立高校137校のうち、別学は12校で、そのうち男子校は5校のみ。「多様性」を重視し、「子供たちの声を大切に」するのなら、もうこの論争は勝負ありではないか。
一方、瀬地山は公費で運営される、成績の良い高校に女子が入れないのは、機会均等の観点からおかしい、と共学推進の理由を挙げる。そして「声なき声」に気づいてほしいと強調する。東大、京大に入学したい男子は浦高を選択できるが、女子にはその選択肢がなく、東京の私立に入学するしかない、これは差別じゃないか、という人がいる。浦高生徒会の調査には含まれない「声なき声」だという。
そんな声もあろうが、機会均等をはき違えた“難癖”にしか聞こえない。だから、その声をテレビで紹介するのは控えるのが賢明である。浦高でなくても、女子校や共学校、あるいは県内の私立校からも東大、京大に進学できるのであり、聞きようによっては他校への差別と受け取られよう。
3人による是正勧告
一方、もし全公立高校を共学化したとすれば、別学志望生徒は私立を選択するしかなくなってしまう。声なき声を聞けと言いつつ、別学存続を望む多くの声は聞かなくていいのか。
そもそもことの発端は、県男女共同参画苦情処理委員に「男子高校が、女子が女子であることを理由に入学を拒んでいる」のは「女子差別撤廃条約に違反」だとして、是正を求める「苦情」があったことだ。
それをきっかけにジェンダー平等を専門とする学者1人、そして弁護士2人からなる苦情処理委員が県教育委員会に8月末までに是正措置を報告するよう勧告した。別学が同条約に違反しているわけでもない上、当事者や世論を無視し、たった3人が是正勧告できる制度はどう見てもおかしくないか。この論争はこの制度の欠陥を浮き彫りにしている。(敬称略)
(森田清策)