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岸田首相こだわりの4万円定額減税に右も左も尽きない厳しい批判

岸田文雄首相(時事通信)
岸田文雄首相(時事通信)

読売なぜか論評なし

5月25日付毎日「首相の露骨なご都合主義」、31日付東京「企業の負担増直視せよ」、6月1日付日経「定額減税の押しつけで消費は目覚めるか」、2日付産経「円滑な執行で消費刺激を」、5日付本紙「誰のための経済政策なのか」、17日付朝日「政策の妥当性検証せよ」――。

政府が6月から始める1人当たり4万円の定額減税に各紙が掲載した社説見出しである。列挙したように、左派系紙はもちろん、保守系紙でも批判的な論調が目立つ。

政権浮揚狙い、選挙対策といった政治的側面もさることながら、政府の狙いとする経済的側面についても、複雑な仕組みによる煩雑な事務負担の増大もあり問題が少なくないからだ。政府の経済政策について、新聞各紙のほとんどが厳しい論調でまとまるのも珍しい。

珍しいのは、もう一点。国内景気や経済政策に敏感な読売に、まだ定額減税に関する社説の掲載がないのである。何故(なぜ)か不思議な気がする。

それはともかく。この定額減税だが、趣旨は物価高で影響を受ける国民生活を支援し、デフレ脱却を確実なものにするということで悪くはない。

だが、その趣旨を本当に生かそうとするなら、スピード感があり事務負担も少ない給付金にすべきだったというのが大方の見方だが、岸田文雄首相が減税にこだわり、減税額の給与明細への明記も義務付けた。

最も厳しかった朝日

東京は、「国からの恩恵」と言わんばかりの首相の態度には強い違和感を覚えるとし、「貴重な財源による減税を、自らの政権浮揚に利用する岸田首相の政治姿勢は許されない」と強く批判。毎日も見出しの通り、「国民受けしそうな政策だけを一方的に宣伝するのは、あまりにご都合主義ではないか」とし、朝日に至っては「政権の人気取りを狙った愚策と言わざるをえない」と断罪したが、尤(もっと)もである。

減税額の明記については、毎日や東京などが、事務負担を強いてでも宣伝するのに増税は積極的に周知しないのでは「筋が通るまい」などとしたが、日経も同様に「それなら家計に生じる負担増の方もつまびらかにすべきだ」と厳しく批判した。

減税額明記に伴う事務負担の増大については、各紙そろって記す。日経でさえ、「人気取りの思惑が透ける」とし、「減税にこだわるあまり複雑な仕組みとなり、事務作業を担う企業や自治体から悲鳴の声が上がる」と猛批判を重ね、「肝心の消費下支え効果にも疑問符がつくといわざるをえない」とバッサリである。本紙も見出しの通り、「誰のために実施するのか」と強い疑問を投げ掛けた。

6紙の中で掲載が遅かったこともあるが、全体的に批判が最も厳しかったのは朝日で、「より根本的な問題は、高所得層も含む国民の大半を対象にし、政策コストが巨大な点だ」とまで言及した。

今回の定額減税は、対象が年収2000万円以下の納税者やその配偶者らで約9500万人で、減税と関連給付を合わせ5・5兆円の規模になる。同紙の「物価高が国民生活を圧迫しているのは確かだが、困窮する層に絞った給付で対応すべきだった」は的を射た指摘である。

甘さが目立った産経

同紙は「費用対効果を検証し、妥当性と政権の責任を問うべきだ」とし、日経も「煩雑さばかりで実感の乏しい減税策で消費をどこまで刺激できるのか。一部で減税継続をうかがう声もあるが、検証もせずに掲げるのは不適切だ」としたが、同感である。

そんな定額減税に対し、産経には批判の言葉はなく、甘さが目立った。同紙は事務負担が大きいため「減税効果を減じないよう円滑な執行」を求め、5・5兆円の巨額予算から「景気を浮揚させる効果を最大化するには、減税の実感を少しでも高める工夫が必要だ」としたが、給付にすれば済んだ話しで、とんだ政策の後始末を担ったようなものになった。(床井明男)

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