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日本の漁業の危機的な現状と課題を分析し再生を訴える東洋経済

海中の魚のイメージ(Image by PublicDomainPictures from Pixabay)
海中の魚のイメージ(Image by PublicDomainPictures from Pixabay)

乱獲と生態系の変化

異常気象が原因してか近年、日本の海では従来獲(と)れていた魚が激減し、逆にいるはずもない魚種が大漁になるという奇妙な現象が生じている。例えば、北海道の南の玄関口函館といえばスルメイカが有名で、朝市などではイカそうめんを求めて観光客が集まるが、近年はスルメイカの不漁が続く。その一方で近海では南方の魚とされているブリが連日豊漁。その販路拡大に躍起だ。北海道に関して言えば、イカのみならずサンマ、シシャモにスケソウダラ、サケの不漁が続き漁業関係者を悩ませている。

そうした中で週刊東洋経済(6月1日号)が「全解剖 日本の魚ビジネス」と見出しを立て、日本の漁業の現状と課題を分析している。リードには「日本の漁業が危機だ。漁業生産量はピークから7割減、輸入金額も上がって海外に買い負ける。魚の獲りすぎを抑え、資源を安定させないと、漁業の未来はない。われわれはいつまで食えるのか」と危機感をあらわにする。

漁業大国としての地位を築いてきた日本だが、日本の漁業を取り巻く環境は極めて厳しいものがある。東洋経済はまず、日本の漁獲量いわゆる生産量の推移を見る。すると、日本の漁業生産量は1973年から1000万㌧を超え、84年には1282万㌧となり、91年頃まで1000万㌧を超えていた。少なくとも日本の生産量は87年までは世界1位の座についていた。それが40年たった今は、391万㌧と約7割近い減少となり、当然順位も下がり現在は11位に後退している。ちなみに現在、1位を占めているのが中国で、8857万㌧に上る。皮肉なことに世界全体の生産量は増加傾向にある中、日本の生産量は減少しているのである。

確かに近年は、漁業の現場からはいい話は聞かない。むしろ、異変のニュースが目白押しだ。例えば、北海道では数年前からスルメイカが獲れないという話を聞く、3年前は道東や道南で赤潮が発生してサケ漁やウニ漁に大きな被害が出た。また、昨年はやはり日高沖に赤潮が原因で市場に出回ることのないズワイガニが大量発生し、タコ漁やカレイ漁に影響が出たという。

こうした日本の漁業が停滞している要因として、東洋経済は六つの点を挙げる。すなわち、①日本国内の長年の乱獲の影響②温暖化による海水温の上昇で生態系の変化が影響している③中国や台湾などの乱獲④排他的経済水域(EEZ)設定によって遠洋漁場が喪失⑤マイワシなど固有魚種の激減⑥漁業就労者の減少―などだ。逆を言えば、こうした点を踏まえて取り組まなければ、日本漁業の未来はないということになる。

漁獲規制で生産安定

もちろん、日本の漁業界で暗い話ばかりではない。養殖技術のレベルの高さは世界トップクラスにあることは周知の事実。また、稚魚の放流事業で成果を上げている地域もある。かつて北海道では明治期にニシンの漁獲が最盛期を迎えていた。それが50年代を境にぱったりと途絶えて以降、ニシンは姿を消していた。ただ、96年から稚魚の放流事業を始め、近年漁獲が回復、スーパーの店頭にも手頃な価格で並ぶようになっている。

日本の漁業を再生させる方策として東洋経済は、「日本のEEZは世界第6位の広さで世界屈指のよい漁場が存在する。きちんと漁獲規制をすれば、高い生産量を安定して維持することができる」(勝川俊雄・東京海洋大学准教授)と獲り過ぎを放置せず、漁業規制を徹底することを挙げる。

未・低利用魚種活用を

その一方で、地域によっては市場に出回らず廃棄される魚種もある。日本の市場に出回っている魚種の数はおよそ600種。日本の近海には3900種の魚介類が生息するといわれている。水産研究・水産機構水産研究所の宮田勉氏は、「当初アカエイはアンモニア臭がきつく嫌われていたが、臭いを抑制することで商品化に成功。アカエイの肝は“海のフォアグラ”とさえ呼ばれている」と未・低利用魚種の活用推進を訴える。

「取る漁業から育てる漁業」といわれた日本の漁業。世界の“海”が変化していく中で日本漁業を守るには科学的に裏付けられた漁獲規制と高付加価値を生み出す“知恵”が求められている。

(湯朝 肇)

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