欺瞞工作に嵌った進歩人士
北朝鮮が韓国をもはや統一すべき同胞ではなく「第一の敵」と規定し、これまで双方で控えてきた敵対行動を再開させている。韓国側もそれに応じて対北措置を解除し、再び南北の間で緊張が高まる兆しが見えている。
新東亜(6月号)で連載コラムを書いている李根(イグン)ソウル大大学院教授が南北関係の推移を整理し、「もはや南北関係は以前には戻れない」という厳しい現実を突き付けて注目されている。
筆者は2022年12月17日付のこの欄で「李根教授は“進歩的人士”に分類された人物であり、過去のコラムで、力よりも対話と経済交流をより優先する対北政策を強調するなど“太陽政策論者”として知られていた」と紹介したことがある。
その李氏が同年10月に自身のフェイスブックで「戦術核の導入に加えて独自の核武装が必要だ」と書き、転向声明とも受け取られ、それ以降、厳しい対北認識を示してきた。南北関係レビューは、李教授自身の言い訳とも反省とも受け取られるものだ。
李教授は韓国動乱以後の南北関係を4段階に分類した。冷戦時代の「軍事対決および体制競争」を経て、冷戦終結後の「関与政策および太陽政策」、2000年代後半からの「北朝鮮非核化の試み」、そして今は「核保有国としての北朝鮮との関係設定」だ。
非核化の試みが失敗し、結局北朝鮮に核兵器を持たせてしまったことが、今日の「敵対関係」を招いたわけだが、もっと北朝鮮に経済援助をしておけば、北をして核武装に追いやることはなかったのではないかとの“未練”もうかがえる。
しかし核武装は“金王朝”の悲願であり、これ一つに生存を懸けているわけだから、南が融和政策を取り経済援助をすれば、それは核兵器開発に流用されることは火を見るよりも明らかだった。北朝鮮の欺瞞(ぎまん)工作に韓国の左派政権や進歩人士たちはまんまと嵌(はま)ったのである。
李教授はこの現実に至って「北朝鮮が韓国に向けた核武力を持っている限り、北朝鮮との正常対話と交流は不可能に近い」と述べる。そして北朝鮮は対話の相手などではなく、「中国、ロシア、イランという修正主義大国と密接に連結された修正主義連帯の一員になった」とし、もはや南と生きる道を捨て切っているとの認識を示した。
だから「ユーラシア大陸全体と国際秩序全体を見ながら北朝鮮を扱わなければならない」と、これまでの南北関係という視点から広げるよう提言している。
こうした李教授の言葉を左派や野党はどう聞くだろうか。以前は対話をし、経済援助をしようと呼び掛けていた人物が、転換した現実を踏まえて、「以前の関係には戻れない」と主張したところで、左派に染み込んでいくだろうかとの疑念も湧く。
韓国政治は政権は保守だといっても、国会は左派野党が多数を占め、その中には“過激な”勢力も入ってきている。彼らは敵対国宣言をした北朝鮮をいまだに援助すべき同胞だと捉えているのだろうか。
李教授は「当分、南と北が主人になってお互いの運命を決める南北関係の時代は戻ってこないだろう」と述べる。北が南と一緒になると、無意識に前提してしまうが、そんな状況ではないという現実が突き付けられている。
(岩崎 哲)