
ヒンズー優遇に懸念
インド総選挙でモディ首相率いるインド人民党(BJP)を中心とした与党連合が勝利。モディ氏は9日、ニューデリーの大統領官邸で宣誓し、3期目の首相に就任した。BJPは単独過半数に届かず、政権安定のためには連立政党への配慮が必要となる。
さっそく主要各紙は社説を張った。各紙に共通したテーマは、「ヒンズー至上主義への懸念」と「自由で開かれたインド太平洋」の要となるインドの重要性だった。
前者の懸念は当然のことだ。モディ氏は国民の8割を占めるヒンズー教徒の優遇政策を取り、少数派のイスラム教徒は苦境にあえぐ。最近、インド北部のアヨドヤで、イスラムの礼拝所であるモスクの跡地に大規模なヒンズー教寺院が建立された。この地にはムガール帝国の16世紀以来モスクがあったものの、「ヒンズー経典『ラーマーヤナ』由来の聖地」と主張する輩(やから)が1992年に破壊。最高裁も2019年、ヒンズー側に土地所有権を認め、BJP主導でヒンズー教寺院が建てられた経緯がある。
モディ氏も1月、この寺院の開設式に参加しヒンズー教徒の支持固めを図った。3月に施行された改正市民権法は、近隣国から迫害を逃れてきた亡命者に市民権を付与するものの、イスラム教徒は対象外としている。
これでは国民を束ねる役どころの首相の名前が泣く。開票後の「世界最大の民主主義の勝利だ」とのモディ氏の言葉も空しく響くだけだ。少数派にも配慮する民主主義の精神と相いれない。
日米に難癖をつける
問題は「自由で開かれたインド太平洋」の要となるインドの重要性に関してだ。
直球型の産経は6日付の主張「インド与党勝利 国際秩序の擁護者となれ」で、「覇権主義的な中国の海洋進出の舞台であるインド太平洋地域において、インドは主要大国なのだという自覚も一層強めてもらいたい。自由で開かれたインド太平洋を目指す日米豪印の協力枠組み『クアッド』の一員として安保協力も積極的に進めるべきだ。インドの動向は世界安定のカギを握っている」と手放しでインドの役割の重要性をたたえる
一方で朝日は8日付社説「インド総選挙 強権統治の限界みえた」で、「中国との対抗を意識して、日米などはモディ政権を取り込もうとしている。だが、それは自由や民主主義、法の支配など基本的価値を共有していることが前提だ」との条件を付ける。
一見、誰も非を唱えることはできない論旨だが、要は日米のインド取り込みに難癖を付けようとしているだけだ。ただその難癖が、「自由民主と法の支配」といったきれいな言葉を使っているところがいかにも朝日らしい。そこには世界を俯瞰(ふかん)した知恵もなければ、誠意も感じられない。こうした言葉は普通、慇懃(いんぎん)無礼という。
27年にはGDP3位
外交にダイナミズムを持たせるには、大局観が重要となる。約半世紀前、冷戦時代のソ連を封じ込めるためにニクソン米大統領が中国取り込みに動いたようにだ。教条主義者が政治を牛耳っていた文革時代の中国と、価値観と政治理念が異なるからという理由で中露にくさびを打ち込むことに躊躇(ちゅうちょ)していれば、その後の国際情勢は今とは大きく異なっていただろう。
ともあれ、世界一の人口を擁するだけでなく、国際通貨基金(IMF)予測で27年にも国内総生産(GDP)が世界第3位に浮上し、軍事費で世界第3の軍事大国になるインドを西側陣営に取り込む努力こそが、これから肝要となる。
そのためには相互の相違点を決定的な対立に持ち込まないように管理していく努力こそが望まれる。
(池永達夫)