受け皿にならぬ立民
新聞、週刊誌などの選挙予測や支持率調査を国会議員本人はどう見ているのだろうか。「所詮(しょせん)部外者、現場を分かっていない」と思いつつも、この数字を最も気にするのも議員本人たちだ。特に首相ともなれば、発表される数字によっては打ち出す政策から自身の身の振り方まで変わってくる。
サンデー毎日(6月9日号)が「選挙のプロ」による予測を載せた。「自民単独過半数割れ」というもの。秘書が雑誌を買いに走るまでもなく、政界とは不思議なところで、発売日よりも前にコピーが出回り、その晩のうちに“関係者”のほとんどにメール配信される。
メディア各社が出す世論調査を基に「選挙プランナーの三浦博史氏」が各党の獲得議席を予測した。三浦氏はこれ以前に、同誌の1月28日号で「自民の獲得議席については、小選挙区11減、比例7減の18議席減」との予想を出していた。ところが今回のはかなり厳しい。「現有の258議席から小選挙区で37減、比例で13減の計50議席減」になるというのだ。これでは過半数(233議席)を大きく下回る。
自民党と連立を組む公明党は「小選挙区で1減、比例で2減の計3減」なので、「与党で計53減、237議席と辛うじて過半数の233議席を上回るものの、政権運営は混迷を極めるだろう」と予測する。
では野党はどうか。第1党の立憲民主党は「小選挙区で27増、比例で4増。全党の中で最も多い31議席を増やす」ものの、「129議席に留(とど)まり、目標に掲げている政権交代には及ばない」との予測だ。
なぜそうなのかと言えば、自民党がこれだけ評判を落としているとはいえ、政党支持率では24・7%と依然1位を維持しており、12・7%の立民の倍はあるからだ。それで自民を離れた人たちはどこへ行っているのかと言えば、日本維新の会、れいわ新選組、参政党などに流れ、さらに支持政党なしを押し上げている。つまり、立民は自民批判の受け皿にはなっていないということ。
それは裏を返せば「野党共闘」ができれば、選挙区で自民を倒せる可能性はあるということだが、候補一本化できない事情とか、さまざまな事情が選挙区ごとにあり、細かな調整ができないので、政権交代には至らない、ということである。
菅氏が発言権強化?
同じような予測は5月にも出ていた。週刊現代(4月27日・5月4日合併号)で「6月『裏ガネ総選挙』そして自民党崩壊へ」の記事だ。「政治ジャーナリストの角谷浩一氏と青山和弘氏」による全選挙区の当落予測で、サンデー毎日が出した自民党の減り方よりも厳しい数字を出していた。
それによると自民党は小選挙区と比例区を合わせて、角谷氏は「192」、青山氏が「198」、週刊現代が「184」だ。これに公明党の予測議席を入れた合計数字が、それぞれ「222」「220」「213」といずれも連立でも過半数割れしている。「自民党が政権を維持するには、野党を政権に抱き込むしかない」状況となる。
維新と手を組むにしても、衝突する選挙区の多い公明党がそれをのむのは難しい。同誌のユニークなところは、だから公明、維新双方にパイプを持つ菅義偉前首相の出番が生じ、菅氏が党内で発言権を強め、過半数割れを招いた岸田首相は辞任せざるを得なくなるという見立てをしているところだが、どうなるか。
健全野党不在の不幸
本来なら、「健全で力強い野党」がいてこそ政治は引き締まるが、わが国の不幸なところはその健全野党がいないことである。サンデー毎日で三浦氏は「政権交代のためには、円安や物価高など国民の暮らしに密接した課題について政策論争を巻き起こし、『政権を取ったらこう変える』という具体策を示していく必要があります。そこが国民に全く届いていない」と指摘している。野党第1党である立憲民主党はこれをどう聞くのか。
自民党というのはいわば個人商店の集まりで、選挙はもっぱら議員・候補者の力が左右する。ただこれだけ党の評判が悪ければ、闘いは当然厳しいものになる。予測を見た議員や立候補予定者はもう走り出していることだろう。(岩崎 哲)