
数週間で製造が可能
犬猿の仲のイランとイスラエル。ほぼ半世紀にわたっていがみ合ってきた。もっぱら、イスラム教シーア派を国教とするイランが、ユダヤ教国家イスラエルの殲滅(せんめつ)を主張する構図だ。
イスラエルが核を持つのに対し、イランは核を持たない。ところが、米国の核合意離脱後、ウラン濃縮を進め、核保有に近づいており、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長も最近、イランは数週間あれば核兵器を製造可能との見方を示したばかりだ。
イランの国会議員、アフメド・バクシャイシュ・アルデスタニ氏が今月10日、イランメディア、ルイダード24とのインタビューで「私の考えでは、私たちは核保有を実現したが、発表していない」と発言したことが波紋を呼んでいる。
米FOXニュースが12日に報じたことで、西側メディアでも伝えられた。
アルデスタニ氏は、「ロシアがウクライナを攻撃し、イスラエルがガザを攻撃し、イランが(パレスチナの)抵抗戦線を強力に支援している中で、それを封じ込めるために、核爆弾の保有が必要になるのは当然のことだ。公表するかどうかは別の問題だ」と述べている。イラン当局から発表はなく、発言の真偽を確認する術(すべ)はなく、一議員の発言にすぎないものの、イランにとって核保有はすでに「当然」とみられているということだろう。
米非営利団体「反核イラン連合(UANI)」のジェイソン・ブロドスキ政策ディレクターはこの発言についてFOXで、「アルデスタニ氏は核を巡る意思決定の中心にはいない。発言は興味深いが、その地位に鑑み、適切に評価すべきだ」と慎重な見方を示した。
静観なら国家破壊も
中東報道研究機関(MEMRI)によると、イランの外交戦略会議のハラジ議長がカタールの衛星テレビ局アルジャジーラで「核爆弾を造る能力はあるが、…造るという決定をしていない。しかし、イランの利益が脅威にさらされるならば、その方針を変える可能性がある」と発言しており、これについてブロドスキ氏は、「イラン当局者は、イスラエルがイランを攻撃すれば、核ドクトリンを変更するという脅しを強めている。ハラジ氏の発言もその一部だ」と指摘、望めばいつでも核兵器を保有できる段階にあることを明らかにしている。
これを受けてイスラエルの保守系紙エルサレム・ポストは、イスラエルがイランの核開発計画を破壊するためにイランを攻撃すれば「独裁的なイスラム聖職者支配体制を転覆させ、イラン大衆に支持される可能性はあるが、国際的に孤立する」、このまま静観すれば、「(イランの核は)ユダヤ国家破壊の脅威となり、何百万人ものユダヤ人の命が失われる可能性がある」と警告した。
MADで抑止できず
米ソ間の冷戦中は、核攻撃を行えば、自国も核攻撃を受け壊滅的な打撃を受ける可能性があるとして核戦争の抑止力となってきた。相互確証破壊(MAD)だ。だが、ポスト紙は、「イランとイスラエルでは、(冷戦時のような)地理的な対称性は存在しない」と指摘する。イランの国土はイスラエルの70倍以上もあり、「イランは数発の核爆弾でイスラエルを消し去ることができるが、イスラエルがイランに相応の被害を加えようとすれば、何十発もの核爆弾を撃ち込む必要がある」と主張。「MADによって、イランの聖職者らによる核攻撃を抑止することはできない」と結論付けている。
さらに、イランがイスラエルとシオニズムの破壊を宗教的理由から支持していることなどから、「イランがイスラエルに対し核兵器を使用しないと考える理由はあまりない」と警鐘を鳴らす。
(本田隆文)