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与党敗因は「尹氏への失望」

9日、ソウルで記者会見する韓国の尹錫悦大統領((AFP時事)
9日、ソウルで記者会見する韓国の尹錫悦大統領((AFP時事)

元老作家卜鉅一氏の総選挙評価

韓国で4月に行われた総選挙で政権与党が敗北した。その理由分析が韓国メディアでは盛んだが、月刊朝鮮(5月号)は「元老作家卜鉅一(ボクコイル)氏」にインタビューしている。

卜氏がまず指摘するのは尹錫悦大統領の「支持者への裏切り」である。今回の選挙で与党敗因の第一に挙げられるのが「経済」と言われているが、経済の悪さは前政権の置き土産で、現政権はその尻拭いをしているにすぎない。卜氏は「疎通」(国民への説明)が足りないと尹大統領の手際の悪さを指摘する。

経済は表面的な理由だとして、もっと根深い理由がある。それは「最も熱烈に支持した人々が失望して投票しなかった」ことだ。何に失望したかと言えば、尹大統領にだ。

尹氏は検察出身である。「たとえ天が崩れても正義が施行される」ことがおのずと期待されている。文在寅前大統領には数々の疑惑、具体的な「重犯罪」が指摘されており、それが厳しく断罪されるものと、与党支持者たちは期待していた。

ところがだ。選挙中に「不正を正す」と言いながら、捜査もまともに行われていない。その文氏はというと、のんびりと野良仕事などする写真をSNSにアップして悠々自適だ。前任大統領が逮捕・断罪される韓国の“習慣”から不思議と自由なのだ。さらに、野党共に民主党の李在明氏は係争中の裁判を抱えたり、数々の不正・疑惑があるにもかかわらず、これも追及し切れていない。

これを見て支持者は尹大統領の“やる気”に疑問を持ち失望したというわけ。尹氏の支持基盤である忠清道ですら、与党候補が負けるという手痛い仕置きを食らった。

卜氏は「夫人問題」も指摘する。「ハイブランドのバッグ」ばかりでなく、政治への“出しゃばり”を制御できない尹氏に不満が集まる。金建希夫人の口出しで参謀たちの出番が抑えられてしまっているのだ。「恐らく医大定員拡大も夫人からなのではないか」と卜氏はみている。これで本来なら保守支持層に数えられる医療界を敵に回して「何十万票が飛んでいった」という。

選挙前には民主党が親明系(親李在明派)と非明系の二つに分裂するとみられていた。だが非明系が公認から外されるという仕打ちを受けながらも、党の決定に従った。この党をくっつけていた「暗黒物質」が何か、興味深い話を卜氏はしている。「中国の介入」である。突拍子もない話に聞こえるが、韓国総選挙の前、4月4日にマイクロソフトは中国の介入を警告する声明を発表した。

「今年、世界的に主要選挙が、特にインド、韓国そして米国で実施されるが、われわれは中国が最小限度、自身の利益を増やすために人工知能生成物(AI-generated content)を生産して広めると予想する。そのような生成物が選挙結果に影響を及ぼす可能性はまだ低いが、ミーム(meme)ビデオおよびオーディオを増強させようとする中国の実験は持続するものとみられる」

李在明氏が突然、得票には役立たない中国の話をあえてしたのが「示唆的だ」という。「多くの国で左派政治家らと知識人が中国の影響下で動いて」おり、中でも韓国は「中国の国益と直結する死活的問題だ」と指摘した。

中国の介入・影響が総選挙にどれほどあったのか、具体的には説明していないが、卜氏は巨大野党が中国の“走狗(そうく)”になることを強く警戒している。人ごとではない話だ。

(岩崎 哲)

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