どう見る映画「破墓」の大ヒット
韓国でホラー映画が1000万人動員を達成して、さらに観客数を伸ばしている。張宰賢(チャンジェヒョン)監督の「破墓(パミョ)」だ。これが「露骨な左翼・反日映画ではないか」という“ノイズマーケティング”で大ヒットさせたという話が出て、これに対して国会韓流研究会諮問委員も務める「ニューシスエコノミー」編集長のイ・ムンウォン氏が月刊朝鮮(5月号)に原稿を寄せた。
「破墓」は在米韓国人の富豪から韓国にある墓の移葬を依頼された風水師、葬儀師、巫女(みこ)(ムーダン)と弟子の法師が怪奇な現象に巻き込まれる話だ。韓国では土葬が一般的だった。風水からみてよい土地を「明堂」というが、ここに先祖を葬れば子孫が栄え、悪相の地に墓を造れば災いがもたらされるという。
映画では、植民地時代に親日家だった富豪の家で子供が悪病に罹(かか)り、どんな治療でも快癒しない。これは墓に問題があるとして、韓国から巫女を呼び寄せて移葬を依頼した。現地で風水師が墓を見るととんでもない悪相で、掘り返すと棺桶(かんおけ)の下に「日帝時代に打ち込んだ鉄杭(てつくい)」があったという展開である。
この鉄杭、金泳三大統領時代に実際に「鉄杭を抜く」運動が繰り広げられたことがある。日本が朝鮮半島の精気を断ち切るために、風水上のツボに鉄杭を打って抑えたという迷信から始めた“国家事業”だったが、全国の山を掘り返してみたものの、実際に発見されたのは測量のために打たれた三角点で、韓国人が信じる(信じたがる)精気を断ち切るような呪術的な意味合いは全くなかったことが後に明らかになっている。
若い世代の対日観に変化も
「親日家」というのは日本時代に協力者だったが故に財を蓄えた「民族の裏切り者」という暗喩が含まれている。だからその子孫に災いが生じるのは当然の報いで、しかも、その原因が風水謀略の鉄杭だったという“反日”コンテンツの合わせ技がヒットしたわけだ。こんな映画がヒットするのは、やはり韓国は反日だからなのか、というのがイ・ムンウォン氏の投げ掛ける問いである。
だが、最近の日本ブームとどう整合させればいいのだろうか。日本を訪れる観光客は多く、韓国では以前は「倭色」と排斥されていた日本風の居酒屋が大ヒットしている。これに対してイ・ムンウォン氏の解説が面白い。いくら日本ブームといっても、それと「反日」とは矛盾しないのだ。「相変わらず韓国社会には反日情緒が大いに蔓延(まんえん)していて、日本ボイコットの雰囲気も相変わらず」なのだという。だから「きっかけさえ与えられればいつでも発火する」のが「反日」情緒なのである。
ただしそれが今の日本人に向けられるかと言えば、そうではない。歴史を語れば日本は侵略者であったし、韓国を近代化させたというが、それは朝鮮が独自に近代化を遂げたかもしれない機会を奪っただけの話だ。
憎いはずの日本を訪れたり、日本ビールを飲んだり、アニメに没頭したりするのは、「それが今現在の最上のコンテンツだからにすぎない」とイ氏は言う。日本文化を遮断していたはずの1970年代、80年代で「ブルーライトヨコハマ」や「恋人よ」は「普通に知られていて、歌われていた」のも、当時、日本のものであるなしにかかわらず、親しまれたコンテンツだったからだ。
だから映画で日本が悪者に描かれるのも、「破墓」のような「事実の歪曲(わいきょく)、無理な設定はこれまで韓国の大衆文化コンテンツで数え切れないほどなされてきた。今回が初めてでもなければ最後でもないだろう」というわけだ。政権が意図的に反日ムーブメントをつくっても、「水底ではそれに伴う反発と反作用も相当にあって、日本ブームとなって可視化される」ものなのである。
さらに「商業映画が愛用した既存の抗日素材は今後、市場を導く20~30代の観客には訴える力は大きくない」(映画評論家のキム・ヒョンホン氏)と言うように、若い世代の対日観にも変化が出てきている。「破墓」はオカルト映画として楽しめばいいだけの話というのが結論のようだ。
(岩崎 哲)