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自治体と地方創生マネーを食い物にするコンサルの実態報じる東洋経済

民間会社に“丸投げ”

ある自治体での話である。現在、総合病院跡地に“箱もの”が建設中だ。図書館と子育て支援センター、さらに市民ホールの機能を合体させた複合施設である。図書館は教育委員会、子育て関連は健康福祉部と担当部署が違う。縦割り行政の中で“同居”が上手(うま)くいくのかと誰もが考えた。結局、図書館は市長部局へ移され、企画部が全体を見ていくことになった。

市民の集える場、学生が長時間ゆったりと勉強したり、調べ物をしたりできる空間。子育て中の保護者が幼児を安心して遊ばせられ、さらに健康面の心配事を相談できる施設。これらが一つの巨大施設の中に納まるのである。

市役所の職員に聞いた。企画部で考えたのかと。そうではなかった。東京のあるコンサルティング会社が絵を描いた。丸投げである。「市の要望は伝えた」というが当然の話だ。客の意向を聞いて図面を書くのが業者である。しかし、施主の考えが十分に伝わっているのかは疑問だった。

市民ホール利用団体の代表がこの計画を聞いて、「これでは今までと同じように利用できない」と筆者に意見を寄せてきた。「今からでも設計に変更を加えられないだろうか」と。市民ホールには観覧席と舞台、楽屋があって、講演会、発表会、展覧会、表彰式などに使われる。各種団体は発表会で日頃の練習の成果を披露する。ところが新規の施設には舞台も観覧席もない。楽屋もない。あるのはホールだけだ。椅子を平面に並べ、高さ数十㌢の台で“舞台”を造ればいいというが、十分でないことは明らかだ。

市民の意見を聞かず

関連する部署の諮問機関である委員会や運営委員に図面が示されたのは計画が動き出した後だった。そこで「ご意見を」と聞かれても、設計図、外装図などが揃(そろ)っていて、ここに修正意見など入る余地などない。「市民の意見を聞きました」という形だけのアリバイ工作にすぎない。

コンサルは東京の会社である。それが地方の数万人規模の自治体、住民の要望を吸い上げ、その地の事情を汲(く)んだ使い勝手のいい箱ものを設計できるとは思わない。第一、市民は意見を聞かれたこともない。役所は意見をコンサルに伝えたのかも疑問だ。大まかな構想を言い、あとはコンサルに全て任せ、出てきた図面を見ただけなのではないかと思えてくる。

地方創生、地域活性化が叫ばれている。人口減少、自治体消滅など地方がどんどん崩壊していく中、それを食い止めようと国は予算を使う。だが降ってきた予算を自治体は十分に生かせているのか、それよりも前に自分の課題を解決するための構想を練る“頭脳”があるのか。自治体は人材確保ができず、1人が幾つもの部署を掛け持ちしている所も少なくない。その状況で「金は出す、あとは考えろ」として全国にばら撒(ま)かれた地方創生の資金はこうして十分に活かされず、コンサルの食い物になっていく。それが現在、全国各地の自治体で大なり小なり起こっていることだ。

資金還流さす仕組み

長々と前振りを書いたが、週刊東洋経済(5月11日号)が「喰われる自治体、溶ける地方創生マネー」の特集をしている。まさしくこの問題に真っ向から焦点を当てた企画だ。記事では福島県国見町のケースを河北新報の記者が書いている。規模や分野は違うが、前述の前振りの話と構図はよく似ている。

記事によると、国見町は「匿名の企業3社から受けた計4億3200万円の企業版ふるさと納税を財源に、高規格の救急車12台を他の自治体にリースする」事業を計画した。財源を寄付したのは救急車の車体製造企業の親会社だった。資金が還流する、ロンダリングされる仕組みを河北新報の記者が報じた。報道を受けて国見町は「百条委員会」を設置して検証している。

同誌は冒頭に流出されたコンサル幹部の録音テープを紹介した。「ちっちゃい自治体って(うちが)経営できるんです」「財政力指数が0・5以下(の自治体)って、人もいない。ぶっちゃけバカです。そういうとき、うちは『第2の役場』。行政の機能そのものを分捕っている」

こうして食い物にするコンサルと、人材難でなすすべもなく言いなりになる自治体の実態を34㌻にわたって特集している。読み応えのある企画だ。(岩崎 哲)

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